追悼・吉行和子さん 料理が嫌でバター丸かじり…「おひとりさま生活」女優が明かした最晩年

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 俳優の吉行和子さんが、9月2日に肺炎のために亡くなった。90歳だった。30代で離婚を経験して以降、長きにわたって「おひとりさま生活」を送っていたという吉行さん。2年前の取材では「人と暮らせない」性分であると語り、ユニークな暮らしぶりを明かしていた(「週刊新潮」2023年1月5・12日号掲載記事の再掲載です。文中の年齢、役職、年代表記等は当時のものです)。

 確かに私はひとりで生きていますけど、私の「ひとり」ってそんな大げさなものではないんですよ。ここまで“偶然”や“仕方なく”が重なって、87歳になった今でもひとりで暮らしているだけで。でも、思い返してみれば、それが必然だった気もするわね。

 私の「ひとり」が決定的となったのは28歳のとき。人並みに結婚くらいしておかなくちゃと思っていたところ、所属していた劇団に、たまたま私に結婚を申し込んでくださった人がいて。そのまま入籍して共同生活を始めたんです。でも……。

 ダメだった。家の中に人がいることに耐えられなくて、毎晩、家に帰る前に喫茶店に立ち寄って珈琲を1杯。よし、帰るぞって気合を入れ直さないと帰れなくなってしまったの。相手には何の非もなくて、完全に私の性格が原因。結局、結婚生活は4年で終わり、以降ずっとひとり暮らしで、家に友人を招くことすらありません。

「家族がいて楽しいって感覚がない」

 よく、ひとりだと食事をするときに寂しくないですか?って聞かれるんですけれど、こんな性格だし、私の場合、もともと周りに人がいなかったのも大きく影響しているんでしょう。

 父は私が4歳の頃に亡くなっていますし、美容師だった母は早朝から仕事にかかり切りで、子どもに構っている暇なんてなかった。そんなふうだから、家族で食事を取ったことなんて数えるくらいで、私には家族がいて楽しいって感覚がないんです。家庭を持っている人は子どもが自立していったり、配偶者に先立たれてしまったりと、楽しかったことがだんだんなくなっていくと寂しさを感じるんでしょうが、それがないからひとりであることのダメージも全くない。

食事は「最低限の栄養素補給」

 だいたい私は食べること自体も好きじゃありません。仕方なく「最低限の栄養素を」と考え、ヨーグルトとかお肉や魚、野菜を食べているけれど、すべて薬だと思いイヤイヤ飲み込んでいる。コロナ禍になって苦手な料理も自分でするようになりましたが、本当に苦痛。うちには油のほかには塩、コショウ、醤油くらいしか調味料がないから、そもそもおいしくなりようがないの。毎度“なんて下手なんでしょう!”“あぁまずい!”なんて悪態をつきながら口に食べ物を放り込んでいるんですから、寂しいとかいう以前の問題です。

 もう究極に面倒くさいときはバターの塊を齧るだけで済ませたり、なんてことも。バターは、小さい頃に母がよく、朝食として私と妹の枕元に塊をボトンッと置いていっていた、ある意味、おふくろの味。「三つ子の魂百まで」と言うけれど、未だにそんなものを齧っているんだから、嫌んなっちゃうわよね。

 もちろん、私だって気の置けない友人たちとおいしいものを食べたりするのは好きなんですよ。ただ、ひとりでの食事や、あまり気の進まない仕事の打ち上げなんかは、栄養を取りためておく場だと割り切っているんです。

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