安過ぎる牛丼はいつまで「ワンコイン」を維持できる? 「インバウンドの人たちはあまりの安さに目を丸くする」

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安さの理由

 あまりにも身近なせいで普段はほとんど意識しない、牛丼並盛の異常な安さについて、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸氏が言う。

「牛丼店は、低価格でお腹いっぱいになれる、若い独身男性の食のインフラ拠点のような部分があります。並盛がワンコインを超えない、この点を死守することが牛丼店の“存在理由”だと思います」

 その安さの淵源にさかのぼれば、

「1970年代に、吉野家がショートプレートと呼ばれる米国産バラ肉を使用するようになってから“牛丼=安いもの”というイメージが出来上がりました」

 そう解説するのは、学生時代に吉野家でアルバイトをした経験のあるB級グルメ探究家・柳生九兵衛氏である。

「アメリカではほとんど利用されなかったこの部位を吉野家が大量に輸入することで、牛丼自体の価格が安くなったのです」(同)

 安さをキープできる理由はほかにもある。

「現在、すき家は約2000店、吉野家と松屋はそれぞれ約1000店が営業しています。店舗が多いので、大量に食材を仕入れることができ、コスト削減につながっています。使用する材料も牛肉とタマネギと米のみと少なく、タレに肉を入れて煮るだけといった調理が簡単なのも、価格を抑えられている要因です。また、チーズやねぎ玉といったトッピングを充実させ、客単価を上げています」(同)

「値上げは原価率の上昇分に追いついていない」

 だが、もちろん順風満帆というわけではない。

 流通アナリストの中井彰人氏によれば、

「ウクライナ戦争が起きて、世界的にエネルギーと食料の値段が高騰しています。日本は食料の6割を、エネルギーの9割を輸入に頼っているため、値上がり傾向は止まらない。さらに人件費も上がっているので、飲食業界の値上げの流れは避けられません」

 実際に、苦汁をなめる飲食店は少なくない。

「所得格差により、大衆の“外食離れ”が起きつつあります。昨年、焼肉屋とラーメン屋の倒産件数は共に過去最多となりました。食材が高騰している中、値上げをすると客が減るという実情が表れていると思います」(同)

 牛丼業界とて逆境にあるのは同様だ。第一生命研究所首席エコノミストの熊野英生氏が解説する。

「牛丼の原材料の価格は、昨年に比べ10%上がっていますが、牛丼チェーン全体の値上げ分は2.7%程度。つまり、約7%分が利益を圧迫しているはずです。値上げはしているものの、その値上げ分は原価率の上昇分に追いついていないと思います」

 値上げが追いつかない理由は二つあるという。

「一つは、原材料の値上げ幅が未曾有のレベルであること。まさかこれほど米の価格が上がるとは誰も予想できなかったはずで、対応が難しいのだと思います。もう一つは、客離れの不安です。一気に看板商品を値上げすることはためらわれるのでしょう」(同)

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