回収された古紙のなかに“有名漫画家の原稿”が…大御所の原画展が大盛況のウラで“原稿を捨ててしまう”漫画家が後を絶たない複雑な理由
原画展は空前の盛況
今、漫画家の原画展が大盛況である。各地の美術館や博物館はもちろん、百貨店でも開催されるようになった。手塚治虫や安彦良和などの巨匠はもちろんだが、「鬼滅の刃」の吾峠呼世晴、「カードキャプターさくら」のCLAMP、「乙嫁語り」の森薫など、幅広い世代の漫画家の原画展が開催されている。
その一方で、原画を保存する施設はどうか。「横手市増田まんが美術館」など一部に生まれているものの、国レベルの大規模な施設はできあがっていない。かつて、里中満智子氏のアイディアから具体化していた「国立メディア芸術総合センター」は、民主党政権やマスコミによって“国営マンガ喫茶”と揶揄され、2009年に頓挫してしまった。
当時は国民の間でも「漫画なんかに金を使うのは無駄」という意見が根強く、文化人からも同様の声が聞かれた。自民党議員の間でも、この事業に反対する声は少なくなかった。それから年月が経ち、その間に日本の漫画やアニメは世界に広まり、コンテンツビジネスに経済界も熱視線を送るようになり、人々の認識も変わったように思える。
近年、再び同様の保存施設の整備が具体化しているとは言うものの、いまいち盛り上がりに欠けている。既に海外に流出した貴重な原画やセル画も少なくなく、手遅れではないかという声も聞かれる。それでも、保存と併せて展示公開する施設ができれば、大きな観光資源にもなり得るだろうし、建設を推進すべきだと筆者は考える。
若手の支援と一緒に行うべき
ネット上には「古いものを守るよりも、若手に支援をすべきだ」という意見もあるが、そもそも若手の支援と原画の保存は一体となって行われるべきである。文化遺産を守るのは、それを権威付けし、ありがたがるためではない。先人が創ったものは、若いクリエイターにとって最高の学習教材なのである。だからこそ、海外は美術館や博物館の建設を進めてきたし、そういった施設をオープンにしてきたのだ。
日本は文化芸術立国を目指すというが、残念ながら、自国の文化を正当に評価できる体制が整っていないように思う。また、経済界からはやたらと漫画やアニメのコンテンツ産業が輸出産業だ、日本の誇りだなどという声が聞かれるようになったが、それも結局は海外で評価が高まり、儲かるようになったから叫び始めた印象がぬぐえない。
筆者は、これまで何度もコンテンツビジネスを推進する事業を手掛ける業者を取材してきた。しかし、ある業者は「金」「メディアミックス」「世界進出」などの言葉は盛んに口にし、「漫画やアニメは(映画やドラマと比べると)コストが掛からないため投資効果が大きい」と豪語していたものの、若手を支援しようとか、文化を大事にしようという言葉は口にしなかった。
漫画の原画やアニメのセル画のコレクターは、海外に急増している。今のうちに対策を講じておかなければ、それらの海外流出は一層加速するだろう。それでも、流出するならモノが残るのだが、価値が認められずに捨てられてしまっては悲劇としか言いようがない。貴重な文化財を後世に残すために、国民全体を巻き込んだ気運の醸成が急がれる。
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