最高の思い出は「長嶋さんと王さんを打ち取ったこと」 “昭和最後の完全試合”を成し遂げた今井雄太郎が振り返る野球人生(小林信也)

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絵皿の請求書

 テレビ番組で“完全試合達成の要因”を聞かれ、「野手の守り65%、捕手のリード15%、運15%、投手の実力5%」と答えている。

「自分なんて二流の投手やもん。本当にバックの守りに助けられた。ショートには名手・大橋穣がいてヒヤッとした当たりも楽々さばいてくれた。それがなければ完全試合はなかったよ」

 27アウトのうち、内野ゴロ18、内野フライ4、外野フライ2、三振3。得意のシュート、シンカーでゴロを打たせての大記録だった。

「阪急デパートの偉い人から、『記念に絵皿を作って配ったらどうだ。出世払いでいいから』って言われるまま180万円で作った。年俸300万円だから嫁さんにえらい怒られた。しかもすぐ請求書が来た(苦笑)。

 完全試合は5勝分の評価だと言われたのに、契約更改に行ったら『1勝は1勝や』言われて、年俸はそれほど上がらなかった(笑)」

 しかし、完全試合達成の自信は今井を大きく変えた。81年には19勝、村田兆治と最多勝を分け合った。84年は21勝で再び最多勝。防御率1位でベストナインにも選ばれた。

 野球人生最高の思い出は? 聞くと今井は言った。

「オープン戦で長嶋さん、王さんを打ち取ったこと。オープン戦には滅法強かったからね(笑)」

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部などを経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』『武術に学ぶスポーツ進化論』など著書多数。

週刊新潮 2025年9月4日号掲載

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