歌舞伎町に住み込み取材で見えた「頂き女子りりちゃん」事件の“闇”とホスト業界の激変
『渇愛 頂き女子りりちゃん』著者・宇都宮直子氏に聞く
男性3人から計1億5000万円をだまし取った罪で、懲役8年6か月の実刑判決を受け、現在は服役している「頂き女子りりちゃん」こと渡辺真衣受刑者(27)。彼女に23回も接見するなどして事件の真相に迫ったのが、ノンフィクションライター・宇都宮直子氏の著書『渇愛 頂き女子りりちゃん』(小学館)だ。今年、第31回小学館ノンフィクション大賞を受賞したが、宇都宮氏は険しい表情で「複雑な気持ち」と語る。(全4回の第1回)
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【写真】「まいのことどうおもってる?」…頂き女子りりちゃんの「詐欺LINEスクショ28枚」
――受賞して、今改めてどのようなお気持ちですか。
今回、受賞という形で評価をいただいたことは大変ありがたいのですが、正直なところ非常に複雑な気持ちです。もしこれが女優さんの人生や成功者の物語を追ったものであれば、心から喜べたでしょう。
でも、これは被害者がいる事件であり、渡辺さんの母もまた“加害者の母親”として世間からのバッシングを受けている状況です。そのような中で、受賞を素直に喜んでいいのか、という複雑な思いがあります。
ただ、歴史ある賞をいただいたことで、現在苦しい状況にある被害者の方々の気持ちや、突然加害者の親となってしまった渡辺さんの母親の気持ち、そして「誰もが加害者になる可能性がある」という社会の状況を伝えられる立場にあることは、非常にありがたいと感じています。
――取材中に意識していたことはありますか。
渡辺さんに寄りすぎないよう、意識はしていたつもりなのですが、結果的には全く気をつけられていなかったと感じています。どう考えても、渡辺さん側に寄りすぎていました。
名古屋への遠方取材
――渡辺受刑者に会う中で、「妙なスイッチ」が入ったとのことですが、具体的にはどのような感覚でしたか。また、渡辺さんへの「過度な共感」はなぜ、生まれたのでしょうか。
今回の取材は(渡辺受刑者が収容されている)名古屋への遠方取材で、「行ったからには何か掴んで帰ってこなければ」という過剰なプレッシャーを感じ、「妙なスイッチ」が入ってしまったのだと思います。それは、「何か特別なものを持って帰らなければならない」「他の記者を出し抜かなければならない」という感覚です。
渡辺さんへの「過度な共感」は、ある意味で自分自身を彼女に投影してしまった部分があると感じています。渡辺さんは、「普通に生きていく手段が、人に好かれること」という生き方をしていました。
私も芸能記者としてスクープや情報を得るためには、他の記者よりも「引っかかりのある存在」でなければ仕事にならないため、「人に好かれなければいけない、人の懐に入らなければいけない」という部分があったんです。
女性として社会で生きる中で感じる「ハンデ」や「嫌な思い」に対する共感も大きかったです。渡辺さんは男性から金を奪う行為を、社会や男性たちへの「仕返し」のように思っていたんだと思います。
――今回、執筆に際し、渡辺受刑者が通っていたホストクラブがある新宿・歌舞伎町に住み込んで取材をしたそうですが、理由を教えてください。
単純に(取材対象と)距離が近くなり、「話が早い」という利点があります。特に歌舞伎町の場合、外部から通っているよりも「中に住んでいる」と言った方が、相手が心を開いてくれることが多いです。
体力的にも楽ですね。24時間、店が開いていていつでもご飯が食べられるなど、「人間、ダメになるな」と思うほど便利。いつも誰かしらがいて気軽に声をかけてくれるので、寂しくないというのもあります。
若い女の子たちが歌舞伎町にはまるのは、「私、一人じゃない」という感覚や、「みんなが怖いと言っている街に馴染めている私」という感覚であるということは理解できます。
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