自民党「総裁選前倒し」議論が白熱するウラで「国民は置き去り」の声…「これほど世論と乖離してしまった自民党は見たことがない」と識者

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「所得制限付き現金給付」の愚

 政治アナリストの伊藤惇夫氏は「アメリカやイギリスの物価は日本と比較すると、2倍から2・5倍というところでしょう。しかし、それでも両国の普通の市民は物価高に悲鳴を上げているわけではありません」と言う。

「両国とも経済成長を実現し、賃金上昇が物価上昇に追いついているからです。一方、現在の日本で国民が物価高に苦しんでいるのは、“失われた30年”で自民党が無策だったからでしょう。9月2日に自民党は参院選の総括を発表しました。私も目を通しましたが、内容には落胆しました。“失われた30年”どころか、アベノミクスの検証も無視しています。失政の原因を明らかにしなければ、同じことを繰り返してしまいます。今もなお、自民党が国民の生活苦を救う有効な政策を打ち出せていない原因だと言えます」

 共同通信は9月3日、石破首相が「所得制限を設けた上での現金給付」を検討するよう指示したと報じた(註)。ネット上では「参院選で否定された政策」、「これは貧困対策であっても、物価高対策ではない」など、批判が相次いだ。

本当に財源はない、のか?

「これほど世論と乖離してしまった自民党は見たことがありません。多くの議員が永田町に閉じこもり、民意を肌で感じ取っていないからでしょう。ガソリン補助金はこれまでで累積約8兆円です。ところがガソリンの暫定税率を廃止しても税収減は1・5兆円に過ぎないのです。さらに政府は数兆円単位の租税特別措置という名の補助金を大企業に出しています。物価高対策のためなら、一時的に防衛予算を削ることだって検討できるでしょう。消費税減税が議論されると自民党は『財源がない』と反論しますが、予算を精査していないのですから国民は納得しません。2026年度の概算要求は過去最大の122兆4454億円に達しました。しかし、この中に国民の暮らしを助けるような政策は入っているのでしょうか?」(同・伊藤氏)

 総裁選の前倒しが実現すれば、候補者と支持者が選挙活動に明け暮れ、候補者同士が論戦を繰り広げるだろう。特にテレビ局は多くの時間を割き、いつものように“メディアジャック”が実現するはずだ。

 だが、その間は政治空白が生じる。消費税減税もガソリンの暫定税率廃止も物価高対策も議論は進まない。これまで国民は総裁選に強い関心を示してきたが、今回も同じという保証はない──。

後藤田正晴の言葉

「自民党もだらしないですが、野党も同じです。国民の生活苦に抜本的な対策を講じなければ与野党共に批判の対象となり、政治不信は桁違いのレベルに達する可能性があります。事実、問題の多い主張を繰り広げている参政党の政党支持率は野党1位です。国民の閉塞感や政治不信を反映していると見るべきでしょう。副総理など要職を歴任した後藤田正晴さんが『この国は、一度地獄を見ないと分からないのかな』と呟いたことが忘れられません。あの時より日本の国力は確実に低下しています。後藤田さんの言葉を今の政治家は噛みしめるべきではないでしょうか」(同・伊藤氏)

註:首相、週内にも経済対策指示検討 現金給付の所得制限案(共同通信電子版:9月3日)

デイリー新潮編集部

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