「しあわせな結婚」最終盤でも謎だらけ 「松たか子」は聖女か悪女か 「阿部サダヲ」が翻弄される結末は

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ネルラは悪女か

 本当は布勢が善人で、ネルラが悪女なのか。善悪の位置関係が最終盤まで分からないミステリーはそう多くない。これも大石氏があえてそうした。ラスト直前にボリュームを割くつもりだったのだろう。

 ネルラの人物像を調べ尽くしているはずの黒川の言葉さえ曖昧だ。

 第6回、黒川は原田にこう言った。

「奥さんは意図せずまわりを振りまわしたり、翻弄したり、傷つけたりする人です。注意してください」

 これでは悪女か聖女かよく分からない。

 たとえネルラが二重人格などではなく、単なる悪女であろうが、この物語は矛盾が生じない。原田との出会いはあまりに不自然だった。ネルラが布勢殺しの疑いから逃れるため、原田を誘惑したという見方が出来る。

 第1回、ネルラは原田と病院のエレベーター内で鉢合わせになった。原田は足の血栓が胸部に回ってしまい、入院していた。

 ネルラは面識のない原田に紙袋を手渡す。「あげます」。原田が中を開けると、現金数万円と「父がお世話になりました」と書かれたメッセージなどが入っていた。医師宛のお礼だった。

 ネルラは普通なら不審者扱いだろうが、原田はネルラに一目惚れ。連日、LINEを送る。それに応える形でネルラは退院日に迎えに来た。

「来ました、お迎えに。あの、ウチ来ませんか」。そのままスピード婚である。現金入りの紙袋は本当に医師に渡すものだったのか? そんな疑問を抱かれても仕方がない。事実、医師に渡していないのだから。

 鈴木家一丸となってネルラと原田を結婚させたフシすらある。目的はもちろん警察からネルラを守るためだ。

 第2回、寛と考の間でこんなやり取りがあった。原田が気に食わないとボヤく寛に対し、考は意味ありげにこう言った。

「ネルラが明るくなったんだから、いいでしょうよ。ネルラにはこの男が必要だ」

 冷めた口調だった。原田に利用価値があるから結婚させたと言わんばかりだった。

 一方で原田はネルラの過去も人柄も一切知らず、鈴木家の内情も分からずに結婚したのだから、かなり迂闊である。半面、だからこの物語は成立している。原田が薄皮を剥がすように事実を徐々に知るから、この物語は面白い。

 このドラマは阿部と松のダブル主演作のようにも見える。だが、そうではない。露出量は同等であるものの、主演は阿部で松は相手役である。 

 ネルラという特異な女性と結ばれた原田が、翻弄される様子が物語の軸になっているからだ。最終的には原田の結婚が幸せかどうかが問われる。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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