24時間テレビは「かわいそうな人」じゃないと走れない? 横山裕とやす子の境遇を比較する気持ち悪さ
今年の「24時間テレビ」(日本テレビ系)ではSUPER EIGHTの横山裕がチャリティーマラソンのランナーを務めた。SNSでは昨年のランナー・やす子と比較し、「やす子と違って“不幸の押し売り”感がなかった」などの声も見られるが、ライターの冨士海ネコ氏はランナーをその境遇を基準に選ぶことの危険性を指摘する。
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【写真】「性的な加害を想起させかねない」と物議を醸した、一昨年の24時間テレビ「なにわ男子」の“幼少期ポスター”
日本テレビの看板番組「24時間テレビ」が今年も幕を閉じた。1978年から続く長寿番組であり、その象徴的企画がチャリティーマラソンだ。今年は関ジャニ∞改めSUPER EIGHTの横山裕さんがランナーを務め、午後8時45分に両国国技館へゴールイン。瞬間最高視聴はその場面で、約2078.6万人が視聴。子ども支援募金も7億40万8600円に到達したという。数字の面では、依然として強い影響力を持つ企画であることが示された。
だが一方で、このマラソン企画は常に「なぜ走るのか」という問いにさらされてきた。酷暑の中でタレントに長距離を走らせる必然性はどこにあるのか。チャリティーとマラソンに直接的な関連はあるのか。毎年のように繰り返されるその疑問は、番組の歴史が長い分だけ色濃くなっている。
とりわけ近年目立つのが、ランナーの「境遇」を物語の中心に据える演出だ。昨年のやす子さんは、1日の食事が学校の給食だけの日もあったというエピソードや、高校時代に児童養護施設で暮らしていたことを明かして話題になった。それだけにランナーとしての意気込みも強く、従来の募金と切り離して設定された「マラソン児童養護施設募金」の発案はやす子さんによるものだったという。
苦しい過去にもめげず、必死に走るやす子さんの姿に涙する視聴者は多かったに違いない。フワちゃんによるSNSでの舌禍事件も直前にあり、「いろいろと苦労しているかわいそうなやす子さん」という空気が出来上がっていた。ゴール後に全国の児童養護施設の子どもたちや出身者たちによるメッセージのVTRが流れ、YOSHIKIさんらからもねぎらわれるシーンで感動は最高潮を迎えたのではないだろうか。
しかし一方で、SNSでは「お涙頂戴の演出が過ぎる」という批判も噴出した。やす子さんの苦しい幼少期や、高校時代にいじめられていたという話はすでに他局を含めてさまざまなところで語られており、感動の演出のために「かわいそうな境遇」がことさらにフォーカスされることへの反発もあったようだ。
今年の横山さんについても、複雑な家庭環境を乗り越えてきた過去が紹介され、チャリティー精神との関連性が強調された。しかし、「やす子はお涙頂戴だったけど、横山はそこまででもない」と横山さんを支持するSNSの声も多数あり、“過去の境遇を前面に押し出すかどうか”が比較されるという事態にもなっているのだ。
この流れから見えてくるのは、マラソンランナーの選び方が「いかに視聴者を泣かせるか」という意向に偏っているということだ。タレント本人の境遇を感動の演出素材として消費するやり方は、企画の成否を本人に負わせ過ぎてはいないだろうか。
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