元カレに心中を要求され、幼なじみに裏切られ… “追い込まれる役”が板についてきた「26歳女優」

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 復讐とか脅迫とか物騒な題材のドラマはひそかに好きだ。たとえ精度が低かったり、現実味が薄かったとしても、人を呪わば穴二つの行く末を見守りたくなっちゃう。被害者と加害者の立場が逆転するのも好物。今夏、中盤から思わぬ伏兵が登場して、かきまわしている物騒な2作をまとめる。

 まずは伊原六花主演「恋愛禁止」。六花が演じる瑞帆は高校時代の担任・倉島(小久保寿人)と付き合ったものの、彼の束縛と暴力に苦しむ。別れて逃げたが、居場所を突き止められてしまう。瑞帆に執着する倉島に心中を強要され、抵抗してもみあった際に刺してしまう。殺したと思ったが事件にはならず、遺体も消えた。罪悪感と不安を抱えたまま、瑞帆は会社の同僚・麻土香(まどか・小西桜子)の幼なじみ・慎也(佐藤大樹)とデキちゃった結婚。罪を隠して幸せになろうとした瑞帆の前に現れたのは、刺殺現場を目撃していた投資家の郷田(渡邊圭祐)。こっちもストーカーとなり、瑞帆に執着して関係を強要。恐怖はこれだけでは終わらないのよ。

 独身と言っていた倉島が、実は結婚していて、その妻(酒井若菜)が執拗(しつよう)に瑞帆を追い詰めてくる。もうすべてゲロったほうが楽では?と思う展開。六花は精神的にも肉体的にも追いこまれる役が板についてきた感が。

 しかもだな、麻土香という思わぬ伏兵が遅れてやってきたのだ、瑞帆に激しい悪意を携えて。タイトル回収。幼なじみと同僚で仲良し3人組、恋愛禁止のはずが、自分だけのけもので、ふたりデキちゃったわけだから。

 倉島の生死も不明のまま、執着と悪意が瑞帆を追い詰めていく。「どないなっとん?」を最後まで引っ張る感じ、嫌いじゃないぞ。

 もう一本、「いかにも」なベタ設定なのが「レプリカ 元妻の復讐」。自分を捨てた元夫と、自分をいじめぬいて幸せを奪った女に、整形して別人になって復讐するっつう。社会的抹殺系ね。

 トリンドル玲奈が特殊メイクを施し、地味で陰気なブス・葵としてスタート。心優しい夫・桔平(木村了)は、華のある美人だが強欲で底意地の悪い花梨(かりん・宮本茉由)に誑(たぶら)かされる。実は、花梨は葵を執拗にいじめた同級生。大手企業に勤めて安定した収入のある桔平を葵から奪ったわけだ。自分を捨てて結婚した二人に復讐すべく長期計画を立てた葵は、すみれと名乗って近づく。元ホストでバー経営者のミライ(千賀健永)も味方につけ、あの手この手で二人を追いこんでいく。

 桔平も花梨もちょっと単純で馬鹿過ぎやしませんかと思うが、怒りと悪意を培養・発酵・増殖していく葵の着地点が気になっている。思わぬ伏兵(山崎紘菜)も巻き込み、協力者を増やしちゃう段階でリスクは多いし、緻密な計画とは言い難く、新たな伏兵・金城(古屋呂敏)は葵にとって脅威となり得る可能性も匂わせる。

 この手の物騒ドラマで重要なのは、被害者側が制裁を受けて当然と思わせる背景の説得力(加害の正当性)、それを阻む、予想外の方向から飛んでくるむき出しの悪意(意外性)でもあるんだなぁと改めて感じましたわ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年9月4日号掲載

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