「国宝」は3時間、「鬼滅」は150分超え…なぜ“上映時間の長い映画”ばかりがヒットするのか 「チケット代の“値上げ”が追い風に」との声も
過去にも名作が
確かに今年は長編作品のヒットが目立つ。だが、過去にも長編ながら高評価を得た作品は少なからずあった。
まず、黒澤明監督の不朽の名作で、1954年「第15回ヴェネツィア国際映画祭」で銀獅子賞を受賞した、三船敏郎さん主演の「七人の侍」(54年)は3時間27分。前半部と後半部の間に5分間の途中休憩を含む当時としては画期的な上映形式だった。60年にアメリカで西部劇「荒野の七人」としてリメークされ、2018年に英の国営放送・BBCが発表した「史上最高の外国語映画ベスト100」では1位に選ばれた。
いまだに国内の洋画興収ランキングで1位の座を譲らない、レオナルド・ディカプリオ(50)とケイト・ウィンスレット(49)主演の「タイタニック」は3時間14分。01年から03年に3年連続で3部作が公開されたいずれもヒット作となったのが、J・R・R・トールキンの小説「指輪物語」を原作としファンタジー冒険作「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ。第1作は2時間58分で第2作は2時間59分、第3作は3時間21分。3作合わせて9時間18分という超大作だ。
「『タイタニック』は公開当時、すっかり社会現象の様相を呈し、国内で続々と観客を動員しました。数ある名場面の中でも、夕暮れのタイタニックの船首で、ディカプリオ演じるジャックが、ケイト演じるローズの両腕を持ち上げ、羽ばたくような形になったのが語り告がれる名シーン。いまだにあのマネをして写真を撮るカップルがいるぐらいです」(同前)
そして上映時間2時間59分の長編映画となったのが、西島秀俊(54)主演の「ドライブ・マイ・カー」(21年)。村上春樹氏の短編小説集『女のいない男たち』に収録された短編「ドライブ・マイ・カー」を、「偶然と想像」でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した濱口竜介監督・脚本により映画化。国内の興収は大規模公開ではなかったことから13.7億円と大ヒット作とはならなかった。しかし、22年の「第94回アカデミー賞」では日本映画史上初となる作品賞にノミネートされる快挙を成し遂げ、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞とあわせて4部門でノミネート。日本映画としては「おくりびと」(08年)以来14年ぶりに国際長編映画賞(旧外国語映画賞)を受賞したのだ。
「西島さん演じる、妻を亡くした舞台俳優で演出家の主人公が、地方の演劇祭からオファーを受け、そこで出会った三浦透子さん演じる寡黙な専属ドライバーのみさきと過ごす中、それまで目を背けていたあることに気づかされていく姿が描かれています。淡々とストーリーが展開されますが、まったく無駄な場面がなく、それが国内外の観客や批評家の心を打ちました。なので、同じような感じの作品で、おまけに日本の伝統文化・歌舞伎を取り入れている『国宝』が米・アカデミー賞でどう評価されるか期待が高まります」(先の映画業界関係者)
鑑賞状況も進化して
映画館のチケットでの一般料金(大人)は、複数のシネコンが19年に26年据え置いた1800円(税込み)から1900円に値上げ。その後、23年6月に2000円に値上げされ、今年9月から2200円に値上げするシネコンもある。
「コロナ禍を乗り切って観客は戻っているものの、光熱費や売店の食材の値上げなど、もはや、料金を値上げすることでしか乗り切れなくなりました。その分、大手動画配信サービスの加入者向けや、ジュニアやシニアなどの年齢層以外に、色々な割り引きが設けられています」(同前)
このチケット代の高騰も、長編映画がヒットする“追い風”となっているようだ。
「費用対効果で言うと、以前に比べて高いチケット代を支払っているからには、それなりのクオリティーの作品を期待します。たとえ上映時間が3時間に迫ろうとも、ずっと目が離せない作品であれば、観客にも受け入れられるようになったのです。邦画も洋画も、製作サイドはたとえ上映時間が長くなろうとも、作品で描きたいことや表現したことをやり切りたい。そんな熱意が観客に伝わって、例年以上に長編映画がヒットしているのではないでしょうか。スクリーンや音響、座席など、長時間座っていても疲れないように劇場の環境が改善されています。そんな環境も長編のヒットの一因となっています」(先の記者)






