FRB利下げ示唆の裏で注目すべき欧州経済の現状 「ECB利下げ打ち止め観測」「後を引くウクライナ情勢」は日本経済にどう影響するのか
関税政策やFRBに対する圧力など、トランプ大統領を中心とした米国経済の動向が連日ニュースで取り上げられているが、わが国に大きな影響を及ぼす経済圏として、「欧州」も忘れてはならない。EU圏内ではウクライナ情勢が後を引き、利下げが続いた欧州中央銀行(ECB)には「利下げ打ち止め」の観測も強まってきた。こうした欧州経済の流れは、日本経済にどう影響してくるのであろうか。為替、金利、株価、家計など、想定されるシナリオについて、欧州経済に詳しい、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員の土田陽介氏にきいた。
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経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」(8月21日~23日)で米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が「9月の利下げ」を示唆したことが、日本でも大きく報じられています。これは日本経済の行方にも大きく影響する重要な事実ではあるのですが、一方で、注目に値する中央銀行の動向はもう一つあります。
この1年間、8回も連続して利下げを行ってきた欧州中央銀行(ECB)においては、「利下げのサイクルは打ち止めになる」という見方が強まってきているのです。
経済を刺激も冷やしもしない「中立金利」として、ECBのラガルド総裁は1.75%~2.25%という数値を示していました。昨年6月から続いた利下げによって、この6月にはすでに金利は2.0%にまで下げられていた。さらに欧州のインフレ率も目標とする2%程度に落ち着いている中で、この7月の会合では利下げを休止。「トランプ関税」やウクライナ情勢などの不確実要因が横たわることもあり、さらなる利下げは行わず、“様子見”のフェーズが続くという見方が有力視されつつある状況です。
為替のシナリオ
こうした欧州経済の動向は、日本経済にどう影響しうるのか。
もちろん、日本も欧州も、米国経済と深い関係にある以上、欧州との関係だけをもって日本経済の展望を明確にお伝えすることはできません。
しかしたとえば、この「ECBの利下げ打ち止め」という事象自体をフックに円・ユーロの為替を考えてみると、欧州の金利が2%の水準で落ち着いていて、かつ日本よりも全体的に財政状況が良いことなどを踏まえると、やはり円よりもユーロ買いが優勢で、つまり円安・ユーロ高の状態が続くというのは、シナリオの一つとして想定されます。
これまでユーロが買われすぎていたともいえる状況に揺り戻しが起こり、ユーロ売りが始まる可能性も考えられはしますが、トランプ関税の影響などの不確実性が後を引く中では、危機対応能力の高いユーロの方が円よりも強いと考えるのが妥当でしょう。
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