甲子園が面白くなくなるピンチ!? 優勝校は関東と関西の「寡占状態」 沖縄尚学と県岐阜商が明けた“風穴”は広がるか?

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 沖縄尚学の初優勝で幕を閉じた夏の甲子園。決勝戦に4万5600人もの大観衆が詰めかけるなど、今年も“夏の風物詩”としての注目度は絶大だった。そんな甲子園大会だが、近年の結果を見ると、優勝校の地域的な偏りが浮き彫りになっている。優勝を狙える高校が関東と近畿に集中しているためだ。【西尾典文/野球ライター】

“二極化”と情報化

 2011年以降の夏の甲子園優勝校(※2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により大会中止)は、関東と関西で拮抗している。それ以外の地域では、2022年の仙台育英(宮城)と今年の沖縄尚学に限られる。

 春の選抜高校野球の優勝校(※=前同)も、関東と関西が拮抗。それ以外では、2015年の敦賀気比(福井)と2019年の東邦(愛知)のみである。

 比較するために、2010年以前の20年間も見てみよう。夏は 九州や四国、北海道など多彩な地域から優勝校が出ており、春も幅広い地域で優勝が見られた。つまり、この15年間で、優勝校は関東と近畿への“二極集中”が強くなったといえるだろう。

 1990年代や2000年代には、九州や四国の公立高が奮闘していた。歴代優勝校には、1994年夏の佐賀商や1995年春の観音寺中央(香川)、2007年夏の佐賀北、2009年春の清峰(長崎)が名を連ねている。

 近年、こうした例は長らく見られていない。2018年夏の準優勝校である金足農(秋田)は、深紅の大優勝旗に手が届きそうだったが、大阪桐蔭に夢を打ち砕かれた。

 今大会でベスト8に進出したチームのうち7校は、春夏どちらかの甲子園で優勝を経験している強豪校ばかりだ。唯一優勝経験がない関東第一(東東京)でさえも、春夏一度ずつ準優勝の経験がある。

 強豪校による“甲子園ジャック”が進んでいる理由について、甲子園出場経験を持つ関東地区の高校の監督は、以下のように話している。

「やはり大きな理由は、選手のスカウティングでしょうね。昔もいわゆる“野球留学”はありましたが、中学時代から実力のある選手がより強豪校へ行く割合が多くなっています。背景としては、中学のチームの“二極化”と情報化が進んだ影響が大きいですね」

“二極化”とはどういうことか。

「甲子園出場やプロを目指す有望な選手は、小学生の頃から有名なクラブチームを探しますね。クラブチーム側も強豪校への進学実績を積極的にアピールし、選手を集めています。これもクラブチームから高校の強豪チームへ進む場合ですが、中高一貫の強豪校は、将来性がある小学生を同じようにスカウトしています。有力なクラブチームや中高一貫の強豪校は、SNSで積極的に情報を発信しています。有望選手を持つ熱心な保護者は早い段階から情報を集めているため、実力や将来性がある選手はチームに集中し、高校は強豪校に進みます。その一方、中学校の部活動で何気なく野球をする子どもは減少傾向にあります。チーム力や練習環境の差は広がる一方です。高校野球も似たような傾向が顕著になってきたと思いますね」(前出の監督)

県内の有望選手をしっかりと集めた2校

 筆者は、今年6月4日配信のデイリー新潮に寄稿した記事のなかで、小中学生のスカウト合戦が過熱化している事例を紹介したが、高校野球でもスカウト合戦に勝利しなければ、甲子園大会での上位進出は厳しくなっている。

 ある球団のベテランスカウトは、「こうした傾向に球数制限の導入と近年の猛暑が拍車をかけた」と指摘する。

「『1週間で500球以内』という球数制限が、今春の選抜から正式に導入されたため、一人のスーパーエースがいるだけでは、甲子園で勝ち進めなくなりました。さらに、夏の甲子園は、猛暑の影響で何試合も完投することが難しくなっています。甲子園で勝ち進むチームは、どこも力のある投手を複数揃えています。しかも、継投を前提とした投手起用をするチームが増えましたね。そうなると、“普通の公立高校”が複数の強豪校を倒して、トーナメントを勝ち上がるのは、かなり難しい。(球数制限のなかった2018年夏の甲子園で快進撃を見せた)吉田輝星の金足農のようなチームは、もう出てこないでしょうね。スカウトの立場で言えば、高校で投げ過ぎて潰れる投手が減るので良いことだと思いますが、毎年同じような高校が、優勝を争うような展開になれば、高校野球人気に影響が出るかもしれません」

 その一方で、今大会では、関東と関西勢の“寡占化”と強豪私学の“独占状態”に風穴を開けるチームが現れた。15年ぶりの優勝を果たした沖縄尚学と、公立高校で唯一ベスト4に進出した県岐阜商である。

 沖縄尚学は1999年と2008年に選抜優勝を果たしている強豪私学だ。県岐阜商も、春夏合わせて61回の甲子園出場と4回の優勝を誇る岐阜県ナンバーワンの伝統校であり、いわゆる“普通の公立高校”ではない。ただ、両チームともベンチ入りメンバーの20人のうち18人が県内出身の選手で占められていた。

 筆者は、いわゆる“野球留学”について全く否定的に捉えておらず、選手が望んでその環境を選ぶことはむしろ望ましいと考えている。そのように前置きした上で、沖縄尚学と県岐阜商は、ベスト8に進出した他のチームほど、全国規模で熱心なスカウティング活動を展開していない点を指摘しておきたい。

 両校は、県内の有望選手をしっかりと集めたことが、甲子園で勝ち抜く原動力になった。

 例えば、沖縄尚学の2年生エース、末吉良丞は浦添市立仲西中学時代(軟式野球部)から140キロを超えるスピードをマークしていた。センターの宮城泰成とセカンドの比嘉大登は、中学時代に浦添ボーイズで、レフトの阿波根裕(いずれも3年)は那覇ボーイズでそれぞれプレー。いずれも沖縄県のボーイズリーグ選抜に選ばれていた。

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