松本まりかと抱き合ってキスも… 不倫におぼれる“二枚目”社長を熱演した「51歳ベテラン俳優」とは

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 大河「べらぼう」で非業の死を遂げた平賀源内役を凄絶(せいぜつ)に演じ切った安田顕。間を置かずに大活躍の夏である。一本はもはや新喜劇と呼び名の高い「奪い愛」シリーズ で、まさかの二枚目社長を、もう一本は韓国原作のリメイク版で、悲惨な過去を背負った警察官を演じている。趣の異なる二作品で堪能するヤスケン祭り(なんか絵に描きたかった)。

 まずは演じる者は真剣に、見る者は今か今かと笑いを期待するのが「奪い愛、真夏」。ベタな不倫劇として笑い飛ばすのに最適なドラマシリーズだが、今回はこのベタな世界観を日本で一番完璧に再現できる松本まりか(ほぼレギュラー)が主演、やや流行遅れとなったタイムリープ要素も加えた味変で挑む。相手役にトリッキーなヤスケン、そしてヤスケンの妻役にこれまた濃厚な高橋メアリージュン。もうメンツだけで豊潤。おなかいっぱいと言わず、猛暑を余計に暑苦しく過ごして、体力の限界を迎えてみたいところである。

 週刊誌記者だったまりかは他人の醜聞で飯を食う仕事に良心の呵責(かしゃく)を覚え、時計会社に再就職。そこの社長が元職人のヤスケン、その妻で画家という設定のメアリージュン。もう説明不要ですね、まりかがヤスケンと恋に落ちてしまい、メアリージュンが猛烈に攻撃してくるっつう構図。まりかの亡くなった母(同じくシリーズレギュラーの水野美紀)はちょいちょい登場しては、失笑をまき散らしていく(滑り台の頂上で正座している水野、最高)。

 歯の浮くような純粋な恋愛模様をはにかんで演じるヤスケンが新鮮。まりかとブランコこいで、プールに飛びこんで抱き合ってキスして……でもね、このドラマの真髄はこれから。妙にあおってくる義妹(森香澄)や部長(石井正則)、妻にバレてから始まる馬鹿げた応酬が奪い愛の醍醐味だからな。

 で、もう一本は「怪物」。双子の妹が切り取られた指先だけ残して失踪。容疑者として逮捕された兄は後に警察官となって事件を追うというのがヤスケンの役どころ。指先だけ切り取られて並べられる猟奇的な事件が、小さな町を揺るがし、すべての人が疑心暗鬼に……ってのが韓国っぽい。とにかく女性が殺されまくるのだが、ヤスケンの感情乱高下はなかなかに激しい。疑われ、白眼視され、やさぐれて、高笑いし、泣き崩れ、怒りで震え……なんというか、こ難しい役だ。

 一方、キャリア警察官の水上恒司は冷徹。ヤスケンを疑って執拗(しつよう)に独自捜査を行うも、次第に見えてきたのは陰惨な事件の真相。人の皮を被った怪物は身近にいた。いや、幼なじみ(藤森慎吾&小手伸也)が最初からヤバ過ぎるでしょと思いつつ、誰もが犯人の可能性を匂わせる感じは嫌いじゃない。ヤスケン&水上のコンビも悪くない。救いのないサスペンスだが、リメイク版としての完成度を高めるために、手練れの役者をそろえた点を評価したい。

 ということで、ヤスケン祭り。「奪い愛」の方はなんか尻がむず痒い感じで楽しんでいるし、「怪物」は表情変化を凝視して堪能中。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年8月28日号掲載

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