「あのちゃん」はなぜ、止まらないのか 「奇抜キャラ」「不思議ちゃん」が今やトップアーティスト

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ドラマでは見事な演技

 音楽を軸にしながらも、彼女の活動はバラエティ、ドラマ、ラジオ、広告と幅広い分野に広がっている。深夜ラジオ番組「あののオールナイトニッポン0」では率直な言葉で本音を語り、バラエティでは場の空気を揺さぶる毒のある言葉をぶつけ、ドラマでは役柄に憑依したような見事な演技を見せる。どの領域においても、求められたものに応える職人気質を感じさせる。

 音楽活動でタイアップの仕事が絶えないのも、「職人」としての信頼によるものだろう。自らの個性を生かしつつ、依頼内容に寄り添い、商業ベースに乗る作品を提供する。それができるのはプロデューサー的な資質を備えている証だ。

 多岐にわたる活動を展開しながらも、決して本業を見失うことはなく、あくまでも音楽を自己表現の核に据えている。見た目や話し方は個性的でやや危なっかしいようにも見えるが、実際には常に周囲を観察し、自分のキャラクターを客観的な目線でコントロールできている。その絶妙なバランス感覚があるからこそ、彼女は多くの場で求められ続けているのだろう。

 彼女の人気の秘密は、ぶれない芯の強さと柔軟な対応力の両方を兼ね備えていることだ。自分の世界観を大切に守りながらも、与えられた場に適応して、その中で結果を出す。そうした姿勢が評価され、タレントとしてもアーティストとしても唯一無二のブランドを確立している。

 今はまだ影響力の強いテレビという場所での活躍が目立っているが、今後はアーティストとしての認知もどんどん高まり、支持層も広がっていくだろう。バラエティで見せる突拍子のない言動も、自作の歌詞の中にある切実な言葉も、すべてが「表現」として1つにつながっているからこそ、彼女は人々を惹きつけてやまないのである。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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