飽きられない女優「河合優実」のすごみ 「番手」ではなく「作品」 関係者からの「悪評」は皆無

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目立とうとしていない

 多作なのは出演依頼が殺到しているから。もっとも、うまいだけが理由ではないだろう。河合は自分のポジションを考えながら演じている。ドラマも映画もチームプレイであることが分かっている。

 大部屋俳優が主演級俳優に張り合おうとすることもあった昭和期と違い、今の時代に「共演者を食いましたね」と俳優に言ったら、怒られるか落胆される。出演陣にはそれぞれの役割がある。それを逸脱したら、名演も台なしなのだ。

 河合は常々、作品はみんなでつくるものだと口にしている。そもそもダンスのチームプレイが面白いから、俳優になった。ダンスと俳優業には似た面がある。

「人と一緒に作ったものをお客さんに見せて反応が返ってくる体験を積み重ねる学生生活で、こういうことを仕事にしたいなって」(読売新聞夕刊2024年4月17日付)

 今も自分のことより、作品全体のことを最優先にしている。

「違う人になってみたいとか、何かになりきりたいという思いが一番上じゃない。みんなで思いや時間を込めて作った体験や、作品が誰かに届く感覚がすごく大きいですね」(同)

 だから蘭子役も引き受けたのだろう。河合は3365人が参加した「あんぱん」のヒロインのオーディションに参加したものの、ヒロイン・のぶには今田が選ばれた。しかし、これほどの存在を制作側が放っておくはずがない。3、4番手である蘭子役での出演を依頼し、本人が了承した。今田と張り合おうともしていない。

 望んだヒロインではなかったのだから、断ったって良かったのだ。映画界では完全に主演級だし、「ナミビアの砂漠」と「あんのこと」によって映画界屈指の栄誉であるキネマ旬報ベスト・テンの主演女優賞(2024年度)にも輝いている。ドラマでも主演したNHK BSプレミアム「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(2023年)がドラマ各賞をほぼ独占した。

 俳優には番手を下げたくない人が数多い。番手が低いと出演しない人もよくいる。プライドが許さないのだろうし、次回作やCM契約への影響も気にする。だから妥協策として特別出演、友情出演という扱いがある。

 河合は番手を気にしていない。出演するかどうかを決めるのはその仕事への関心である。「あんぱん」の場合は作品全体が放つメッセージに惹かれた。「素適と思った」(『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説「あんぱん」Part1』)

 多くの作品が国民的ドラマになるところにも心が動かされた。

「日本中の皆さんが毎朝放送を楽しんでくれると思うと、それが一番うれしい」(同)

 優等生的な発言ばかりだが、本心に違いない。悪い評判を全く聞かないからである。ここ3年で計30作品にも出演しているから、関係者から陰口の1つや2つが出てきてもおかしくないが、皆無。医師の父親と看護師の母親に温かく育てられたからではないか。

 ロカルノ国際映画祭で最高賞を得た「旅と日々」も3番手。NHK「群青領域」(2021年)などで知られるシム・ウンギョン(31)が主演で、スランプ中の脚本家に扮し、堤真一(61)や河合らと旅先で出会うことにより、ほんの少し歩みを進める。

 監督は三宅唱氏(41)。岸井ゆきの(33)が聴覚に障がいのあるプロボクサーを演じた「ケイコ 目を澄ませて」(2022年)で国内映画賞の大半を得た。

 河合は出演にあたり、「(三宅氏は)最初に『監督と演者というより、一緒に作っていく人として接します』と言ってくださったのですが、それがすごく嬉しかったです」と話していた。

 河合の俳優業への取り組み方を考えると、腑に落ちる言葉である。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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