夏の甲子園、高野連に批判殺到…大会期間中に事実上禁止した“カット打法” 大学でもファウルで粘る打法を貫く

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今までで一番悔しい試合でした

 だが、この回の二塁走者のときに、鳴門の捕手が「走者(千葉)がサインを出しています」と球審に訴え、サイン盗み疑惑で試合が中断するハプニングも。「(審判に)言われたけれど、自分でもよくわからなかったです」と首をかしげた千葉だったが、準決勝進出を決めた試合後、さらにショッキングな出来事が待ち受けていた。

 大会本部がファウルで粘る千葉のカット打法を問題視し、流石裕之部長と佐々木洋監督に「あの打法はスリーバント失敗になります。次からアウトにします」という内容の通告をしてきたのだ。

 これは、高校野球特別規則8・バントの定義(自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルにするような、いわゆる“カット打法”は、そのときの打者の動作により、審判員がバントと判断する場合もある)によるもの。大会本部の説明によれば、2、3回戦では問題となる事例ではなかったが、準々決勝は紛らわしく見える打ち方があったという。

 だが、体格のハンデを克服して、強豪校のレギュラーとして生き残るために、ひたすら努力を重ねてきた千葉にとっては、苦労の末、確立した自己流のスタイルを否定されたも同然だった。

 岩手県勢初の決勝進出がかかった8月21日の準決勝、延岡学園戦、カット打法を封印した千葉は、1球もファウルを打つことなく、わずか10球で、すべて内野ゴロの4打数無安打に終わり、攻撃のリズムを作れなかったチームも0対2で敗れた。

 試合後、千葉は「小さいなら小さいなりに頑張って、ファウルで粘って、何としても塁に出るのが自分の役割だと思っていた。(それができず)今までで一番悔しい試合でした」と号泣した。

 この日、日本高野連には「2回戦(彦根東戦)でも同様の打撃をしていたのに、なぜ準々決勝後に(説明)したのか?」などと説明のタイミングの遅さに対する抗議や問い合わせが50件以上も相次いだという。その一方で、大会後の9月12日、岩手県高野連と同野球協会審判技術委員会が、打者が2ストライクに追い込まれてから明らかにファウルを狙った打撃をした場合は、スリーバント失敗でアウトとすることを確認するなど、高校野球特別ルールを順守しようとする動きも見られた。

 それから4年後、筆者は東都大学野球春季リーグ戦で、日本大4年生になった千葉を開幕カードの中央大戦で見る機会があった。千葉は1、2回戦とも代打で出場し、いずれもファウルで粘った末に四球で出塁。高校時代からやってきたことをひたむきに貫いている姿に、好感を抱いたことを覚えている。

 その後は社会人の九州三菱自動車で25歳までプレーを続けた。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘!激突!東都大学野球』(ビジネス社)。

デイリー新潮編集部

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