夏の甲子園、高野連に批判殺到…大会期間中に事実上禁止した“カット打法” 大学でもファウルで粘る打法を貫く
2013年夏、4年ぶりの4強入りをはたした花巻東の快進撃に大きく貢献したのが、出場49校の選手たちの中で最も身長が低い156センチ、56キロの2番打者、千葉翔太だった。左打席からボールをギリギリまで引きつけ、左方向へのファウルで粘る“カット打法”を武器に、準々決勝までの3試合で10打数7安打3打点5四球と驚異的な出塁率(8割)をマークした。だが、大会本部がこのカット打法をバントと見なし、事実上禁止したことが、大きな波紋を呼び起こした。【久保田龍雄/ライター】
【写真】2013年夏の甲子園準決勝で延岡学園に敗れ、涙を流す千葉翔太選手
勝利を呼ぶ男
同年の花巻東は、菊池雄星(現・エンゼルス)、大谷翔平(現・ドジャース)のようなスターは不在ながら、4投手の継投と機動力を駆使し、相手の隙を徹底して突く全員野球で勝ち上がった。その象徴的存在が千葉だった。
初戦の彦根東戦では、1回の1打席目に8球粘って遊撃内野安打、3回の2打席目もカウント2-2からファウル7本と13球粘った末に四球を選ぶなど、4打数3安打3打点1四球と本領発揮。2ストライクまではバントの構えで揺さぶり、追い込まれるとバスターのような構えからファウルを連発し、「自分は出塁するのが仕事」という2番打者の役目に徹した。
3回戦の済美戦では、センバツ優勝2度の名将・上甲正典監督がセンター・町田卓大に投手と三塁手の中間付近を守らせ、ライト・山下拓真が右中間に移動する内野手5人の“千葉シフト”で対抗してきたが、ものともしない。
1回1死の1打席目、「強いゴロで抜こう」と“シフト破り”に挑んだ千葉は、安楽智大(元楽天)の4球目、143キロ直球を右前に打ち返し、先制点につなげる。さらに7回の3打席目も、安楽の2球目を引っ張り、右翼手の横を抜けてフェンスに到達する三塁打を放った。
3対3で迎えた延長10回無死の5打席目、長打を警戒した上甲監督はついにシフトを解除したが、「いつもの守備に戻ったので、気楽に打席に立てた」という千葉は、この日3本目となる中前安打を放ち、一挙4得点のビッグイニングを呼び込んだ。
大会最速155キロを誇るプロ注目の本格派右腕・安楽から猛打賞という快挙にもかかわらず、練習で1年先輩にあたる大谷の剛速球を体験していた千葉は「(安楽は)あまり速くなかった」と言ってのけた。まさに「気持ちで勝って打った安打」だった。敗れた上甲監督も「千葉君にやられた」と脱帽した。
そして、準々決勝の鳴門戦でも、得意のカット打法が冴えわたる。
初回の1打席目からファウルで粘り、1安打4四球と5打席すべて出塁。鳴門のエース・板東湧梧(現・ソフトバンク)に一人で計41球も投げさせた。この日の板東の投球数は163。その4分の1以上を千葉一人に費やしたことになる。
1点を追う8回には、千葉は先頭打者としてこの日3つ目の四球を選び、2死後、3連続長短打で逆転に成功。3試合続けて“勝利を呼ぶ男”になった。
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