今年の「夏の甲子園」はドラフト候補が“大不作” 「7回制」が導入されれば、“聖地”からスカウト陣が消える可能性も

スポーツ 野球

  • ブックマーク

プロのスカウトの姿が消える?

 しかしながら、上記の二人を除けば、スカウト陣からあまり高く評価する選手は出てこなかった。

 大会前にスカウト陣の注目を集めていた未来富山の左腕、江藤蓮は、初戦の山口代表・高川学園戦で5回1/3、8失点と炎上し、負け投手になった。試合後、「プロ一本」で考えていた進路を考え直すと語っている。

 そもそも、今大会は「ドラフト対象選手が極めて少ない」と言われていた。
甲子園のスカウト席にも、空席が目立ち、大人数が集結していた日は数えるほどだった。ベテランスカウトが嘆く。

「長年スカウトをしていて最も少ないですね。49の代表校のうち、対象になる選手がいるチームは7校しかありませんでした」

 高卒でプロ入りを狙える選手でも、早々に大学進学や社会人入りを決めているケースが多かった。

 8月14日にデイリー新潮で配信された寄稿記事「夏の甲子園に2年生の新スター候補が登場! 聖隷クリストファー・高部陸は“学業優秀” 有名大学とプロが獲得を巡り水面下で『情報戦』も」で触れたが、3年生の春の段階ですでにプロ志望か、否かを決めている選手が増加している。

「今年の3年生は特にプロ志望が少なく、2年生ばかりを見ています」と愚痴を溢すスカウトもいるほどだ。

 それに加えて、スカウト陣が頭を痛めるような“事案”が持ち上がっている。それは、日本高野連が導入を検討する「7イニング制」である。前出のパ・リーグ球団のスカウトは、“危機感”を強めている。

「7イニング制が導入されると、当然、選手の出場機会は減りますよね。継投策となれば、一人の投手が1試合に投げるイニングは、3回や4回程度になりかねません。そんな野球しか経験していない高校生が、格段にレベルが上がるプロの世界で、9イニング制で試合を行うことになる。一気にハードルが高くなりますよね。そうであれば、大学野球や社会人野球で9イニング制に慣れてから、プロ入りを目指す……これが主流になる可能性は高くなるでしょう。選手の健康面などを考えると、7イニング制にはメリットがあるかもしれませんが、高校生には、大学野球や社会人野球でやることがないほど、レベルが高い選手も一定数います。こうした選手は、早い段階で練習環境が整ったプロの方が飛躍的に成長します。7イニング制が巡り巡って、こうした成長の機会を奪ってしまう可能性はありますよ」

 ドラフト候補の減少が、今年だけの一過性の問題ではなく、今後も続いていく可能性を孕んでいる。甲子園のスタンドからプロのスカウトの姿が消えてしまう――。近い将来、そんな日が訪れるのかもしれない。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。