人事権はなかった、は本当なのか 「日枝久氏インタビュー」で見逃せない「矛盾点」
フジへの身内意識
日枝氏は7月8日に放送された検証番組からの取材依頼を断った。一方で、中居氏と女性アナの性的トラブルを追及した『週刊文春』と同じ文藝春秋が版元の『文藝春秋』のインタビューは受けた。これについて日枝氏はこう口にした。本音が垣間見えた。
「なぜ(文春と)同じ会社の雑誌に話をするのか、という社内の反発はありました」
「社内」と言った。「フジ」あるいは「古巣」などではなかった。まだ自分がフジの一員であるという意識が強いからだろう。また、「社内の反発はありました」という下りによって、日枝氏は今もフジの社員と交流していることが分かる。
日枝氏はこうも言っている。
「(検証番組の担当者から)インタビューの申し出がありました。僕のところへ中元をもってきて『検証番組に出てほしい』と言ってきました。それで『僕がこんなものを受け取れるか』と突き返しました」
日枝氏が中元を受け取らなかったのも社内の人間同士という認識があったためではないか。
日枝氏は検証番組の取材を断った理由をこう説明した。
「(フジに)答えても、お手盛りにしか見えないでしょう」
だが、取材拒否は本人にもフジにもプラスにはならなかったと見る。日枝氏は説明責任を果たしていないという印象を与えてしまった。フジは会社関係者の取材すら出来ないというイメージを背負ってしまった。
一方で1月17日と同27日の記者会見に出なかった理由はこう語っている。
「記者会見は会長や社長など執行部がやるものであり、今度の場合は相談役の僕が出ていくのもおかしいでしょう」
これは理解できる。フジの事実上のトップとはいえ、代表権はなく、中居氏と元女性アナの問題には関わっていないのだから。近年、個別に取材すべきことまで会見を要求する風潮が強すぎるのではないか。
半面、日枝氏は6月下旬までにフジとFMHの取締役相談役を退いたが、その際にはメッセージを出すべきだったと考える。また、会見をせずとも書面での質疑応答くらいはやったほうが良かった。公共色が極めて強い民放の事実上のトップを30年以上務め、社風をつくり上げたのだから。
フジには女性アナたちを上納する文化があったと一部で報じられたが、日枝氏はこれについても触れ、言下に否定した。
一方で、検証番組において港浩一前社長(73)が女性社員の一部を選び、自分を囲む港会なる会合を開いていたことが明かされたが、これには薄々気づいていたようだ。
「(港氏に対し)毎週のようにやっているのはまずいぞ、と注意したことはあります。けれど上納と懇親はまったく違います。上納は自分の体を捧げるわけでしょう」
ただし、過去の経営陣の中には港氏以外にも女性アナを集めて頻繁に飲み会を開いていた人物がいる。場所は東京都港区白金。女性アナ側は断りにくいし、周囲や後進に悪影響を与えたのではないか。
女性アナが帰る際には元経営陣が車で送った。やはり女性アナは拒みづらいはず。日枝氏は気が付いていたのだろうか。
日枝氏は週刊文春にはいまだに不満があるようだ。中居氏と元女性アナの性的トラブルの記事を訂正したからである。
昨年12月26日発売号の第1弾では元女性アナがフジ編成幹部(当時)に中居氏との会食に誘われ、断れずに参加したとする記事が載った。その後の取材で誘ったのは中居氏本人と判明したそうで、1月8日発売号の第2弾以降は内容を訂正した。
「文春は第2弾の記事で編成局の人間が食事に誘ったのではないという事実を認めて否定しているわけではなく、シレッと訂正しただけです」
もっとも、第3者委員会がこの訂正の事実を重視しなかったのは知られているとおり。元編成幹部が中居氏と元女性アナの接点となったことに変わりなく、業務の延長線上における性的トラブルと認定したからである。
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