甲子園春夏連覇へ好発進! 横浜高校を支える「松坂世代の遺産」 選手は全国から集結…レギュラーは愛知出身が“最大勢力”
連日熱戦が続く夏の甲子園で、今大会の優勝候補筆頭は、今春の選抜を制した横浜(神奈川)だろう。昨秋の新チーム結成から公式戦で一度も敗れることなく、選抜優勝を達成。春の関東大会では、準決勝で専大松戸(千葉)に敗れて公式戦の連勝は27でストップするも、激戦の夏の神奈川大会を勝ち抜いた。松坂大輔(元西武など)を擁した1998年以来となる“春夏連覇”への期待も高まっている。【西尾典文/野球ライター】
【写真】横浜高校のエース・織田翔希選手が敦賀気比を完封しマウンドで気を吐く瞬間
神奈川出身者はひとりだけ
横浜が初戦に登場したのは、8月8日に行われた大会第4日の第3試合。相手は、春夏連続出場の強豪校、敦賀気比(福井)だった。しかし、難敵に対して、2回までに4点のリードを奪うと、4回途中には集中豪雨によって1時間7分の中断もあったが、最後まで隙を見せることなく5対0で危なげなく勝利をおさめた。
先発のマウンドを任されて完封勝利を飾った織田翔希(2年)は、150キロを超えるストレートをマークし、早くも来年のドラフト1位候補と言われる“逸材”だ。
この日は7本のヒットを許すなど、織田は本調子ではなかった。それでも、失点を許さなかったのは、野手の再三にわたる好プレーがあったからだ。
1回には、ツーアウト二塁の場面でサードの為永皓(3年)が内野安打になりそうなボテボテの当たりを素手で捕球して素早くファーストでアウトにした。
さらに、5回は、ワンアウト満塁からのレフトフライを奥村頼人(3年、背番号1)がタッチアップした三塁走者をホームでアウトにする好返球もあった。
村田浩明監督は試合後、織田に対して「日本一の野手が守っているのだから、自身を持って投げろと言いました」と激励したことを明かしている。
監督が日本一と話すように横浜のメンバーの多くは入学前から評判になっていた選手である。
「背番号1」を背負う奥村は滋賀出身で、小学校時代は年末に行われているNPBジュニアトーナメントの「阪神タイガースジュニア」に選出されたほか、中学時代にもボーイズリーグの関西選抜としてプレーした経験を持つ。
センターを守る阿部葉太は愛知出身で、中学時代は全国大会でも活躍している。完封勝利をあげた織田も福岡出身で、中学時代には軟式で140キロを超えるスピードをマークするなど評判だった。
ベンチ入りしたメンバー20人の出身地を見ると、神奈川以外に茨城、千葉、埼玉、東京、愛知、滋賀、兵庫、福岡、大分、佐賀と文字通り全国から選手が集まっていることがよく分かる。レギュラーに限ると、愛知出身者が4人を占めており、“最大勢力”であるのに対して、神奈川出身者はひとりだけだ。
有望な中学生を巡るスカウティング合戦は年々激しくなっているというが、その中でなぜ横浜に多くの有望選手が集まってくるのだろうか。
「松坂世代」がもたらしたもの
まず一つ大きな理由として挙げられるのが、冒頭でも触れた1998年に松坂大輔を擁して春夏連覇を達成したことだと言われている。
それ以降も興南、大阪桐蔭が春夏連覇を達成しているが、横浜は準々決勝のPL学園戦での延長17回の死闘、準決勝の明徳義塾戦での6点差大逆転、決勝の京都国際戦での松坂のノーヒット・ノーランと“ドラマ性”が他校と比べても大きく異なっている。
感動的な戦いぶりに影響を受けた野球少年やファンは非常に多かった。横浜高校OBに以前、話を聞いた時にも、やはり1998年の春夏連覇を見ていたことが大きかったと話している。今の現役高校生にとってはもちろん生まれる前の話であるが、その親がまさに松坂らの活躍を見ていた世代であり、そのことも少なからず影響していると言えるだろう。
そして、「松坂世代」がもたらしたのがもう一つある。神奈川の高校野球人気だ。今年の神奈川大会決勝も、横浜スタジアムがレフトとライトの外野スタンドの上部付近に設置された「ウイング席」まで埋まるほどの観客が詰めかけている。
全国でも神奈川の人気は圧倒的に高いが、長く地元で高校野球を観てきた観客の話では、1998年の春夏連覇以前はここまでではなかったという。
実際、松坂がまだスターになる前の2年夏の神奈川大会の準決勝の映像を見ても、横浜対横浜商の伝統校同士の一戦で多くの観客は詰めかけているものの、現在と比べると、空席は明らかに多い。
それが「松坂世代」によって、横浜を中心に一気に高校野球への人気が高まり、そんな中でプレーしたいと感じる選手も多く、そのことが横浜を選ぶ理由の一つとなっているようだ。
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