暴力事件で「夏の甲子園」出場辞退 大炎上!広陵問題の“根本的問題点” 甲子園出場監督やコーチングの専門家が指摘 広陵OBの本音は…!?

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 予定されていた夏の甲子園、大会第6日が全試合雨天中止となった8月10日、大きなニュースが飛び込んできた。広陵(広島)が、部内の暴力行為事案による騒動を理由に、今大会の出場辞退を発表したのだ。【西尾典文/野球ライター】

もう少し早く対応をとれたのでは

 広陵を巡っては大会開幕直前に、SNSで、元部員の保護者と見られるアカウントが今年1月に暴力事案があったとの投稿をきっかけに大きな騒ぎへと発展した。それを受けて、学校側と日本高野連は3月に厳重注意処分があったことを公表したうえで、大会への出場を認めることを表明していた。7日に行われた、1回戦では旭川志峯(北北海道)を相手に3対1で勝利をおさめて、2回戦進出を決めた。しかし、その後には、1月の事案と別の案件も日本高野連へ情報提供があり、騒動は収束する気配を見せていなかった。

 10日に会見した広陵の堀正和校長はSNS上で学校に“爆破予告”があり、生徒が登下校中に追いかけられる事案もあったことを明かし、生徒や教職員の安全と大会運営への支障を考えて今回の判断に至ったと説明した。

 近年では2021年夏にチーム内の新型コロナウイルス感染拡大の影響で宮崎商(宮崎)と東北学院(宮城)が大会開幕後に出場を辞退したほか、2005年には開幕直前に明徳義塾(高知)が部内暴力と喫煙で出場辞退したことはあった。だが、1回戦を勝ち進んだチームが、部内の不祥事で大会を去る事例は、前代未聞である。

 確かに、このまま広陵が勝ち進めば、騒動はさらに過熱していく可能性は高い。そのことを考えれば事態という判断はやむなしという意見も多いだろう。

 ただ一方で、今回の騒動における学校側、野球部側の判断は、あらゆる面で後手に回ったとの印象は否めない。実際に、保護者と見られるアカウントが今回の暴力事案について投稿したのは7月の地方大会が行われている時期だった。

 当初、学校名は伏せられていたが、8月3日の時点では、既に広陵に対して事実公開を求めるオンライン署名が公開されて大きな騒ぎとなっていたが、学校側が「これまで(高野連に)報告していた内容以外に新たな事実関係はない」と見解を公表したのは、大会開幕後の6日だった。

 その公表についても、直接の説明ではなく、高野連を通じたものだ。広陵・中井哲之監督が、本件で公にコメントしたのも7日の試合前取材が最初であり、それも「学校が発表した通りなので、今を頑張るしかないと思う」というものだった。

 わずか数日の間で判断するのは難しいとの意見もあるかもしれないが、様々なメディアで大きく報じられていたことを考えると、もう少し早く何かしらの対応をとることができたのではないだろうか。

「連帯責任による悲劇」

 実際に、暴力事案がSNSで投稿された通りだったのかなどについては、今後の調査結果を待つ他ないが、直接事案にかかわりのない野球部員や他の生徒が被害者である。

 広陵のOBに話を聞くと、「今回の件については詳細が分からないのでコメントできない」とのことだったが、「高校時代の指導や上下関係など厳しいことはあったが、組織ぐるみで暴力的な行為を行っているようなことはなく、野球部員や関係者全員がそのように見られるのは残念でならない」と話していた。

 これまでも部内の不祥事で出場停止や辞退になった事例は多く、関係のない野球部員への同情の声も少なくなかった。日本高野連と全日本大学野球連盟を統括する日本学生野球協会も、その点を問題視し、今年2月には対外試合禁止処分を下す判断の基準を明確化し、連帯責任負わせない方向性を強めている。例えば、判断基準は、「違反行為をした部員数が10人以上または部員総数の50%以上」と明らかにしている。

 ただ、今回は、対外試合禁止ではなく、甲子園の出場辞退……またしても「連帯責任による悲劇」が起こったと言えるだろう。

 甲子園出場経験を持つ監督に、今回の件について見解を聞くと、多くの部員を抱える強豪校ならではの難しさについてこう話してくれた。

「強豪校は100人以上の部員を抱えているチームも多いですが、一方で指導する側はそこまで多くの人数がいるわけではなく、どうしても目が行き届かない部分が出てきます。そういう理由で、1学年の部員数をあえて少なく絞っているチームもありますよね。学校によっては、野球部が強いおかげで部員が多く、生徒数も多くなっているところもあり、経営を考えると“少数精鋭”というわけにはいかないというところもあります。ジレンマを抱えている野球部の指導者も多いと思いますね」

 広陵は女子マネージャー11人も含めて164人の部員を抱える大所帯で、これは今大会の出場校の中でも最も多い。広陵の全校生徒数は1454人で、生徒数の大半が野球部ということではないが、それでも野球部員が1割以上を占めている。学校内でも、野球部の存在が大きいことは確かだろう。

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