ニヒルで渋い「天知茂」 実兄が明かしていた“意外な素顔”とは

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実は気さくな性格

 81年の「闇を斬れ」(関西テレビ)では悪徳政治家・田沼意次(三國連太郎)と戦う隠密チームのリーダーに。メンバーは、長屋に住む剣の達人・鳥飼新次郎(天知)、火薬と仕込み槍を遣う按摩の安斉(山城新伍)、潜入が得意な金魚売りのテツ(三浦浩一)、小唄の師匠ながら実は女忍者の渚(坂口良子)、隠密犬・火山だ。天井から毒薬をたらしたり、悪人の口に爆薬を入れて爆発させたり、すさまじい仕事ぶりだ。驚いたのは新次郎が死んだはずの殿様に変装し、精巧に作ったニセ顔をベリベリとはがすシーンがあったことだ。ご存知「美女シリーズ」の明智小五郎の得意技まで披露する大サービスなのだった。ちなみに、虎毛で賢い火山は天然記念物の甲斐犬。天然記念物と共演というのも珍しい。

 晩年の主演作で印象的だったのは、山手樹一郎・原作「十六文からす堂」シリーズ(フジ)の2作だ。

 江戸の町角で「一見十六文」で手相人相を見る“からす堂”(天知)は、「仲良くすれば子も授かりますぞ」などと夫婦喧嘩の仲裁までする人気者。お客がちゃんと見料を払っていかないのが悩みの種だが、実は彼は立派な家の出なのである。

 例によって事件に巻き込まれると、悪人相手に「死相が出ています」「そういう人相です、この人は」などと惚けたことを言いながら、黒い着流しで編み笠を被り、独自の推理と剣の力で悪に挑む。ユーモアたっぷりのからす堂は、天知茂自身が明るい三枚目を演じたいと希望して実現した。

 残念ながら筆者は生前、天知を取材することができなかったが、亡くなった後、担当していたラジオ番組に彼の兄で写真家の臼井薫さんに出ていただき話を聞くことができた。

 出演作ではひとり酒を飲むシーンも多かったが、実際はアルコールが苦手。家族を大切にし、洒落もわかる気さくな人柄で、首都圏で時代劇の撮影があるときは衣装とマゲをつけたまま家に帰ったこともあったという。

「必殺仕掛人」(朝日放送)の極悪人と気弱侍の二役、「雲霧仁左衛門」(関テレ)の完璧な盗みを働く盗賊の頭など、思い出されるのはニヒルで渋い役柄がほとんどだが、素顔に最も近かったのは「からす堂」だったのかもしれない。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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