ニヒルで渋い「天知茂」 実兄が明かしていた“意外な素顔”とは
ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第34回は亡くなって40年になるニヒルで渋い俳優・天知茂(1931~1985)だ。
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1985年に54歳の若さで急逝し、没後40年となった天知茂。違法すれすれの捜査も厭わぬ「非情のライセンス」(テレビ朝日)の会田刑事や、数々の猟奇的事件に挑んだ土曜ワイド劇場「江戸川乱歩の美女シリーズ」(同前)の名探偵・明智小五郎といった当たり役で知られるが、下積みからブレイクするきっかけとなったのは時代劇だった。
1959年の新東宝映画「東海道四谷怪談」。
備前岡山の浪人・民谷伊右衛門(天知)は、お岩(若杉嘉津子)との仲を反対する彼女の父とその友人を斬殺。江戸へ出て貧窮生活を送る中、旗本・伊藤喜兵衛(林寛)の娘・お梅(池内淳子)に見染められ、邪魔になったお岩に毒を飲ませた上、按摩の宅悦(大友純)に言い寄らせて不義の罪で切り捨てようと企てた。お梅と祝言をあげた伊右衛門のもとに毒で無残な形相になったお岩が亡霊となって現れる……。
殺された宅悦とともに戸板に釘付けにされ、暗い水から浮き上がるお岩。それを見て驚く伊右衛門はものすごい形相だが、光と影の強いコントラストの中に“悪の美”も感じさせる。怪談映画の名匠・中川信夫監督によるこの作品は、ジャパニーズホラーの最高峰と称される。
勝新との対決
もう一作、忘れてはいけないのが62年公開の大映映画「座頭市物語」。勝新太郎のヒットシリーズの記念すべき第1作である。
飯岡助五郎(柳永二郎)のもとにわらじを脱いだ座頭市(勝)は、敵対する笹川一家の助っ人・平手造酒(天知)と知り合う。その出会いの場――。川べりで釣り糸を垂れる市のもとに黒い着流しの平手が、ザッ、ザッと草を踏みながら近づく。「あたしもやくざの端くれです」と言う市と「江戸の食いつめ者だ」と自嘲する平手。互いに地元やくざの世話になっているが、その腹黒いやり方に嫌気がさしているのである。
市は浮きの気配だけで魚がかかったかを察知し、平手が病んでいることまで見抜く。二人は多くを語らないままに互いの力を認め合う。それだけに、宿命の対決シーンは観る者の心に刺さる。
70年代に入ると活動の場はテレビに移り、加藤剛・主演の「大岡越前」(TBS)でカミソリと異名をとる与力・神山左門を演じるなど渋い存在感を発揮する。
主演作では73年の「無宿侍」(フジテレビ)がある。謎の人物に操られていた刺客集団のゲン(天知)が、掟を破って抜け忍の無職侍ならぬ“無宿侍”となって、元同僚たちと闘いながら自分を操っていた人物の正体を探るというハードなストーリー。第1話には天知に加え、親友役に山崎努、執拗に攻撃してくる元仲間役に露口茂と「昭和の渋い顔三人男」が揃った。企画・プロデュース・監督は五社英雄だ。
80年代に入ると娯楽色が強い作品が増える。
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