母親は“世界一のリベロ” 仙台育英のエース、吉川陽大は、高校球界屈指の左腕 スカウト陣は「これだけの変化球を操れる投手はなかなかいない」
猛暑のなかで行われている夏の甲子園は8月6日、大会第2日を迎えた。前日の第1日は開幕試合のみで、まばらだったプロ野球のスカウト陣も、この日は朝からネット裏に大勢姿を見せていた。彼らの視線を一身に集めていたのが、第1試合に登場した仙台育英のエース、吉川陽大(3年)だ。【西尾典文/野球ライター】
変化球だけではない
父の吉川正博さんは、バレーボールの女子日本代表の元監督で、母の博子さん(旧姓・津雲)は“世界一のリベロ”に異名をとる日本代表の名選手だった。アスリート一家でも話題となっていた左腕は、身長175cm、体重73キロ。神奈川県出身で、中学時代は横浜都筑シニアでプレーした。
迎えた甲子園大会初戦の鳥取城北戦、先発のマウンドを任された吉川は、立ち上がりから相手打線を圧倒。最後まで連打を許さず、被安打5、12奪三振で、5対0で完封勝利を飾った。129球の熱投だった。
「立ち上がりは少し緊張がありましたが、須江先生(須江航監督)が『お前なら大丈夫だから自信を持っていけ』と言われて、思い切って投げることができました。自分は変化球で組み立てていくタイプなので、いろんなボールでカウントをとることができたことが良かったです。(点数をつけると)70点です。四死球があり、こちらが有利なカウントで打たれた場面があったので、そこを修正して、次の試合に臨みたいです」(吉川、試合後の囲み取材)
本人のコメントにもあるように、変化球は見事な切れ味を見せた。カーブをはじめ、スライダー、カットボール、チェンジアップを巧みに操り、どの球種でもストライクがとれる。
特にカットボールは打者の手元で鋭く変化し、ワンバウンドでも空振りを奪うシーンが多かった。このように書くと、読者の方は「技巧派」のように思われるかもしれない。
だが、ストレートの球速は、コンスタントに140キロを超え、最終回に144キロをマークするなど、高校生左腕として十分なスピードを備えている。
三振を多く奪える理由について聞かれると、吉川は「カーブなど遅いボールを見せてから、バッターにストレートと思わせるカットボールを投げることで空振りが奪いやすくなると思います」と論理的に説明していた。また、変化球に頼り過ぎることなく、要所はしっかりと速いストレートを投げ込んでいる。
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