母親は“世界一のリベロ” 仙台育英のエース、吉川陽大は、高校球界屈指の左腕 スカウト陣は「これだけの変化球を操れる投手はなかなかいない」
今後の試合を考えて
視察したパリーグ球団のスカウトは、吉川について、以下のように評価している。
「見る度に良くなっている印象で、初めての甲子園でも堂々とした投球でした。どのボールもフォームが変わらずに投げられるところが評価できますね。高校生でこれだけの変化球を操れるピッチャーはなかなかいません。最近のサウスポーは、チェンジアップは良くても、スライダー系のボールがいまいちということが多いのですが、吉川は、スライダーとカットボールが素晴らしい。ストレートも春以降、スピードが上がってきましたし、体ができれば、球速が上がっていくでしょう。高校生の左腕では、上位クラスだと思います」
試合前日は、父の正博さんのアドバイスで、寝る前に自分の良い時のピッチングをイメージして就寝したという。初めての甲子園のマウンドで、多少の緊張はあったそうだが、そんな様子は全く見られなかった。大舞台でも自分をしっかりコントロールできていたことも、高く評価されるポイントではないだろうか。
仙台育英は、3年前の夏の甲子園初優勝、その翌年の準優勝を果たした時には、力のある複数の投手を揃えて、継投で勝ち上がっており、先発投手が完投するケースはあまり多くない。
なぜ、吉川を最後まで投げさせたのか。須江航監督は試合後、こう説明している。
「（完投させた）理由はいくつかあります。日程的に次の試合まで間隔がありますし、吉川にもう一回り大きくなってほしいので、最後まで任せました。捕手の川尻結大（3年）が（脚の痙攣で）途中交代となり、代わりにマスクをかぶった倉方湊都が1年生だったので、ピッチャーを交代してしまうと少しリズムが崩れる不安もありました。ブルペンで準備していた井須大史と梶井湊斗も2年生ですが、場数を踏んでいるので、（この試合で）甲子園のマウンドを経験させる必要はないと思いました。今後の試合を考えて、彼らを（対戦相手となるチームに）見せずに隠すという情報戦という部分もあります。次は、今日ブルペンだった投手もしっかり投げてくれると思います」
この日の投球を見る限り、吉川は、須江航監督の期待に応えて、もう一段階成長したといえるだろう。それに加えて、ブルペンに待機していた投手を温存し、次戦以降の対戦チームに情報を与えなかった側面でも、吉川の完封勝利がチームにもたらしたプラスは大きい。
仙台育英の2022年以来となる全国制覇へ。そして今秋のドラフト会議に向けて、吉川の左腕から投げ込まれるボールに今後も注目だ。
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