かつては「女人禁制の3K職場」も…注目される「女性漁師」の活躍 深刻さ増す“人手不足”と“高齢化”の救世主となるか
海を生業の場とする「漁師」といえば、津軽海峡の荒波に揉まれ、一本釣り漁船を操りながらマグロを追う青森県大間の漁師や、長期間にわたって世界の海洋を大人数で航海する遠洋漁船の乗組員などが頭に浮かぶはずだ。いずれにせよ、頑強な身体つきのたくましい男性をイメージするのが一般的だろう。だが近年、目立つようになってきたのが若い女性漁師の活躍だ。それも、どちらかというと華奢なタイプが多く、「本当に漁師なの?」と疑ってしまう女性漁師も少なくない。上下関係の厳しい男社会、「3K職場」とも言われる漁業現場にも、ジェンダー平等の兆しが見え始めたのか。近況をリポートする。【川本大吾/時事通信社水産部長】
【写真を見る】文字どおり「荒波に揉まれる」業界に飛び込んだ“女性漁師たち”のまぶしすぎる素顔 そう言われなければ漁師に見えない女性ばかり
漁業生産も漁師も減少の一途
サンマ、イカやサケなど、主だった海産物の水揚げが軒並み振るわないことから、日本の漁業生産は減少し続けている。2024年の総漁獲高は約278万7000トン(海面漁業)と過去最低を更新した。こうした漁業の実情を反映してか、漁師の数も減少の一途をたどる。23年は約12万1000人で、30年前に比べて6割以上減らし、高齢化も顕著となっている。
水産高校などを卒業して漁師になる若者はいるが、「5年くらいで辞めてしまうケースが多い」(水産関係者)というのが現状で、漁業の将来に暗雲が立ち込める。遠洋漁業などではインドネシア人など外国人漁師を乗船させ、何とか出漁にこぎつけているものの、「やはり日本人の漁師が活躍してくれなければ、漁業の持続的な発展はあり得ない」と水産関係者は口をそろえる。
実は、いま漁師として海に出る人のうち、女性の割合は1割ほどを占めている。ただ、その多くは親族が漁師というケースで、「畑違いの女性が漁師になるケースはほとんどない」と言われてきた。だが、ここ最近、どういうわけか女性漁師が各地で続々と誕生しているのだ。
「女性が少ないなら自分が挑戦したい」
静岡県熱海市の網代港には、相模湾で定置網漁業を営む「網代漁業」という漁業会社がある。23年春、同社初の女性漁師として働き始めたのが浦田月(しずく)さん。焼津水産高校を卒業後、漁師の道を目指したのは「中学生の時、母と海へ釣りに行き、魚に興味を持つようになったことがきっかけ」(浦田さん)だという。
最近は水産高校を卒業した男性でも漁師志望者は減る一方というが、浦田さんは「(全国でも)女性の漁師は少ないと聞いて、それなら自分が挑戦してみたいと思った」ときっぱり。日々夜明け前に出港し、漁場で網の回収や魚介類の選別、運搬などをこなす。
今年で3年目を迎えるが、明るくひたむきに仕事に取り組む姿勢が先輩漁師からも評価されており、「私ががんばることで、(若者が)漁業や漁師に興味を持ってもらい、実際に漁師になってみようと思う人が出てきたらうれしい」(浦田さん)と話す。
三重県尾鷲市では「子供の頃から魚好きで漁師に憧れていた」という金澤麻紀さんが、百貨店、海運会社を経て2年前から漁師になった。茨城県出身の金澤さんは、漁師になることについて、親に反対されたこともあったというが、「今では毎日、いろいろな魚が獲れてすごく楽しい」と目を輝かす。
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