後半戦4連勝で「マジック点灯」の藤川阪神…主役は“三冠王”も視野の「サトテル」だけじゃない 快進撃を支える「31歳の司令塔」に熱視線
坂本の能力を見抜いていた捕手の先輩
坂本は15年ドラフト会議で2位指名されたが、2年先輩の梅野隆太郎の後塵を拝してきたイメージも強かった。「学生時代は主将を任されて来た」などキャラクター的にもかぶる部分も多く、そうなると、どうしても先輩に分がある。だが、前任の岡田彰布氏(67)が指揮を執った23年、坂本の捕手としての力量もきちんと評価されるようになった。
「岡田氏は2度目の監督就任の要請を引き受けた際、正捕手を決めて1人のキャッチャーでペナントレースを乗り切るのが理想と話していました」(前出・同)
その1人というのが梅野だったが、岡田氏は平田勝男ヘッドコーチ(当時=66)の進言も聞き入れ、村上頌樹(27)、大竹耕太郎(30)ら一部の投手が先発する日は、坂本にスタメンマスクを任せることにした。
同年の村上はプロ初勝利を含む10勝を挙げ、現役ドラフトで移籍してきた大竹も12勝をマークし、チームの優勝、日本一に大きく貢献した。岡田氏も彼らを支え続けた坂本を評価していたが、その才能にもっと早く気付いていたのは、矢野燿大氏(56)だという。
「矢野氏は坂本がルーキーイヤーだった16年に作戦兼バッテリーコーチに就任し、目を掛けていました。ベテランの能見篤史氏(46)に教育係もお願いしていました」(前出・チーム関係者)
繰り返しになるが、坂本には捕手として強い特徴があるわけではない。しかし、捕手出身の矢野氏の見方は違った。捕球技術、盗塁阻止率、配球など、捕手に求められる全てをそつなくこなしており、苦手がなく、“総合力で長けた捕手”と評価していた。
「優しい人なのだと思います。捕手には主に2通りのタイプがあります。『オレについて来い』の姿勢で投手を引っ張っていく捕手もいれば、投手の気持ちを先回りして考え、『この球種で勝負したいんだろ? 分かっているから』と乗せていくタイプです。坂本はそのどちらでもありません。投手と対話して配球を決めていき、彼がいつも口にするのは『勝たせたい』の言葉です」(前出・同)
仲間を思う気持ちの強いチーム
7月27日のDeNA戦、先制点は坂本のバットから生まれた。4打数3安打と活躍し、試合のお立ち台ではそのことを質問された。しかし、
「年に1回あるぐらいのもので」
と謙遜して答えたが、前出のチーム関係者によれば“素の言葉”で、猛打賞に関する回答は用意していなかったという。
「先発の高橋遥人(29)を勝たせることしか考えていませんでした。その高橋に317日ぶりの勝ちをつけることができ、それで頭のなかがいっぱいになっちゃったんです」(前出・同)
阪神は仲間を思う気持ちが強いチームでもある。藤川監督も現役時代、出場機会に恵まれなかった中谷仁氏(46=現・智弁和歌山高校監督)がマスクをかぶると、決め球のフォークボールを故意にワンバウンドさせていた。一見コントロールミスだが、捕球技術に優れた捕手であることをベンチに伝えるためのワンバウンド投球だったのだ。
「今季ブレイクした豊田寛(28)に好機を譲るために前打者が右打ちをし、若い小幡竜平(24)に失策をつけてはならないと、一塁手の大山悠輔(30)が体で送球を止めたこともありました」(前出・在阪記者)
“共同作業”で27個のアウトを積み重ねていく配球がチーム防御率1点台の驚異的なディフェンス力を作り上げた。坂本の「投手を勝たせたい」の対話リードは守る野手陣にも伝わっている。坂本をMVPに推す声が出たのはそのためだ。
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