「今年の代表校、うちの甥っ子の学校なのよ」 地方では“高校野球が生活の一部”の実態を佐賀県に移住したネット編集者が明かす

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佐賀北がどこまで進むか

 それだけ地方において高校野球は身近な存在で大切にされているのだ。だから、県大会では肩入れする高校はあれど、代表が決まればノーサイド。どの高校が甲子園に行こうが地元の代表校を応援する。これは徳島や青森や岩手の出身者と喋っても同様のことを言われた。翻って東京時代の話だが、夏の甲子園では、日大三高と、2006年の斎藤佑樹を有する早稲田実業の優勝がある。

 だが、いずれも遠い世界の話のようで、応援する気になれなかったし、特に嬉しくもなかった。むしろ「超高校級」の選手がいたPL学園(清原和博・桑田真澄)、横浜高校(松坂大輔)、大阪桐蔭(中田翔)や「やまびこ打線」の池田高校を応援していた。

 佐賀に引っ越した48歳の時に、地方ならではの高校野球の楽しみを知ったわけだが、今年の佐賀県代表は県立の佐賀北高校である。同校は2007年にも夏の甲子園大会に出場。あれよあれよという間に決勝戦まで上り詰め、決勝の相手は広島の広陵高校。2011年にドラフト1位で広島カープに入り、2016年は16勝で最多勝投手になった野村祐輔という逸材が相手投手だった。しかも、キャッチャーはWBC日本代表経験もある小林誠司である。

 下馬評は当然、広陵が高かったが、広陵リードの4-0で迎えた8回裏、佐賀北が1点を返した後、満塁で3番の副島(そえじま)浩史がホームランを打ち逆転。試合は5-4で佐賀北が勝利した。この時の映像を見返すと、「甲子園には魔物がいる」という言葉を実感できる。強豪の私立に人口の少ない県の県立高校が相対しているというだけで判官びいきが発動される。

 広陵の野村投手は、押し出しフォアボールとなる判定に戸惑う様子も見せたが、球場全体が佐賀北を応援するような空気感になったのである。この試合については、佐賀県内の土産物店などのテレビで未だに流れている。それだけの偉業だったし、あれから18年経っても県民にとっては嬉しい試合だったのだ。また、満塁ホームランを打った副島は、最近でも「あの人は今」的に地元の佐賀新聞やスポーツメディアに登場したり、出身の福岡大学のHPでも紹介されたりしているほどである。

 さて、今回の甲子園大会、佐賀北がどこまで進むか、大会防御率0.39の稲富理人投手が全国の猛者と渡り合う姿が今から楽しみだ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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