芸能界の「力学」も超越する比類なき存在　新事務所に移籍「くりぃむしちゅー」の底力

個々の才能が高水準

　一方、有田は「全力！脱力タイムズ」で独自の笑いを追求している。報道番組の設定で毎週さまざまな趣向を凝らした企画が行われ、ゲストとして招かれた芸人が被害者として散々な目に遭う。この番組では、有田自身も演出に深くかかわっており、彼が理想とする笑いの世界を体現したような番組となっている。

　上田の抜群の言語能力と安定感あるツッコミ。有田の豊かな発想力とお笑いマニア的な目線。この2人のキャラクターは、単なるコンビとしての相性を超えて、個々の才能が高水準で成立している点に大きな特徴がある。だからこそ、それぞれが単独でも成立する。同時に並んでいても、決して互いの良さを邪魔しない。くりぃむしちゅーは芸能界における理想的な「二人三脚」の形を実現している。

　今回の事務所移籍劇では、くりぃむしちゅーが事務所の力に頼らず、自力で立っていたことが改めて証明されることになったとも言える。テレビ業界では、大手事務所の力がキャスティングや番組の継続に影響するという側面は否定できない。

　だが、そうした力学を超えて、制作者からも視聴者からも求められる存在であり続けている。それは、彼らが業界の構造に寄りかからずとも成立する本物の実力者であることの証しである。くりぃむしちゅーは、時代に適応しながらも流されず、独自のペースで芸能界のトップを走り続ける比類なき存在なのだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』（キネマ旬報社）の編集長を務めた。『イロモンガール』（白泉社）の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』（ディスカヴァー携書）、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』（イースト新書）、『逆襲する山里亮太』（双葉社）、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』（光文社新書）など著書多数。

デイリー新潮編集部

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