「7回制導入」なら見られない大逆転も…夏の甲子園で本当にあった“8、9回のドラマ”

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記憶に残る“8、9回のドラマ”

 終盤の両チーム死力を尽くしたせめぎ合いの末、大会史上初の逆転サヨナラ2ランスクイズで決着を見たのが、2018年準々決勝第4試合、金足農対近江である。

 6回に北村恵吾(現・ヤクルト)のタイムリーで2対1と勝ち越した近江は、8回にも安打と敵失で無死一、二塁のチャンスをつくるが、金足農のエース・吉田輝星(現・オリックス)が後続3人を打ち取り、追加点を許さない。その裏、金足農も先頭打者が安打で出るが、林優樹(現・楽天)がクリーンアップ3人を打ち取り、緊迫した1点差の攻防が続く。

 近江は9回にも連打で無死一、二塁と押しに押すが、この回も吉田が2奪三振と踏ん張り、バックも送りバントを三塁封殺するなど、全員一丸となってゼロで切り抜けた。

 そして、8、9回のピンチをしのいだことが、勝利の女神を振り向かせる。9回裏、金足農は連打と四球で無死満塁とチャンスを広げると、9番・斎藤璃玖が三塁側にスクイズ。

 ボールが一塁に送られる間に、三塁走者に続いて二塁走者・菊地彪吾も生還し、2ランスクイズで逆転サヨナラという劇的な幕切れとなった。

 もし7回制なら、近江が2対1で勝利し、球史に残る2ランスクイズも、秋田県勢では第1回大会以来103年ぶり決勝進出もなかったことになる。

 ちなみにこの日の準々決勝第3試合、日大三対下関国際も、7回2死までノーヒットノーランに抑えられていた日大三が、0対2の8回に4安打を集中して執念の逆転勝ち。2試合続けて記憶に残る“8、9回のドラマ”が発動している。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘!激突!東都大学野球』(ビジネス社)。

デイリー新潮編集部

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