福岡で刺身を食べて「えっ、この醤油、甘過ぎ!」…九州に移住した編集者は「むしろ東京の味付けが物足りなくなります(笑)」

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全国にある「独自の味」

 それにしても、食の好みというものがこんなに短期間で変わるものかと驚いた。もはや現在では、東京出張の時に刺身を食べると物足りないのである。どう物足りないかといえば、コクがないと感じてしまうのだ。甘味がまさにうま味調味料的な役割を果たしていると感じる舌になってしまったのだ。

 今年の5~6月は九州外の知人に釣ったイカを冷凍で送ったが、その時は九州の濃口醤油も箱に同封した。関西の女性からはお礼が来たのだが「イカ、ありがとうございました。私の母は鹿児島出身で、刺身にはこの醤油が一番だと思っています。関西では無添加のものはなかなか手に入らないんです」、とのこと。

 九州の人が関東に行った時、うどんやソバのツユに「なんやこれ!」と仰天するのと同様に、関東の人も九州の漆黒の沼のごとき刺身醤油に仰天するかもしれない。しかし、コレが刺身だけでなく、オーブントースターで焼いたさつま揚げ(九州では「天ぷら」と呼ぶ)や冷奴にも合うことに数日後には気付くかもしれない。

 そういった意味で、日本全国にはその土地独特の味わいがあり、それを楽しむという趣味を得ることもできる。昨年、「郡山ブラック」という福島県郡山市のラーメンを知人からもらったが、これが存外にウマかった。佐賀で「味噌汁に柚子胡椒入れるとウマいばい」と言われ、自家製柚子胡椒をもらったが、今では味噌汁に柚子胡椒を入れなくては満足できなくなった。

 九州人は餃子にもおでんにも柚子胡椒を使う。となると各地にも「この食べ物にはこの調味料!」というものはあることだろう。それらを今後色々と探求したくなったのである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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