「東京タワーによじ登るのだと勘違いした息子が…」 歌人・田中有芽子が「東京」について詠んだ短歌の内容とは

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「私の東京」って何だろう

 歌集『私は日本狼アレルギーかもしれないがもう分からない』の著者で歌人の田中有芽子(うめこ)さん。札幌生まれ埼玉育ちの彼女が、さまざまな記憶をたぐり寄せて思い出す「東京」の景色は、父と息子、3世代で足を向けた東京タワーのそれで……。

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 初めまして。田中有芽子と申します。私は札幌生まれの埼玉育ち東京在住、日頃は短歌を作っています。エッセイのテーマ「わたしの東京」という言葉で、デパートの屋上で遊んだ時の懐かしい情景が思い浮かびました。明るい日差しとにぎやかな音楽。100円入れると走る赤や青の小さなスポーツカー。綿飴機が熱く甘い香りを立てて回っている。幼い私には十分に心躍る時間の終わりに、お母さんが水色のビーズのがま口財布を手のひらに載せて「軽くなっちゃった」と言った時の笑顔。かすかな苦みが混ざる遠い記憶をたどるうちに気が付いた。

(これ、東京じゃないかも)

 大宮かも。大宮市(当時)は埼玉県。多忙で子だくさんな親にとって東京は遠い。テーマは「わたしの東京か大宮」でもよろしかったでしょうか?

 思い返せば東京だと断言できる10歳前の記憶は上野動物園ととしまえんのみ。上野動物園でパイナップルアイスを全部食べられなかったこと、今は無き遊園地としまえんに非常に恐ろしいトンネル状の異空間があったことを覚えています。いずれも東京らしさが薄い思い出。「わたしの東京」って何だろう?

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