食用? 波紋を呼ぶ“セミの幼虫乱獲”看板 「地域のイメージ悪化」で苦情、文言修正の自治体も

国内 社会

  • ブックマーク

「イメージが悪くなる」寄せられたクレーム

 一方、杉並区は文言を変えて、現在もポスターを掲示し続けているようだ。

 2020年に、『文春オンライン』が区内の妙正寺公園、清水森公園、天沼西公園の3か所にポスターが貼られていた旨を報じている。

【おねがい 区内の公園で食用その他の目的でセミ等を大量捕獲するのはおやめください】

 かつて上記のように記されていた文言は現在、

【おねがい 公園内で昆虫などを大量につかまえないでください】

 と改められており、ポスターイラストにはセミらしき姿が見えるものの、具体的な“昆虫”の種類や、その目的には言及していない。

 ポスターの文言に変化があった背景を、杉並区都市整備部みどり公園課に尋ねた。

「2020年の報道の際、ポスターにあった“食用” “セミ”というワードがクローズアップされる形で、うっかり記事がバズってしまいました。これを受けて“杉並区のイメージが悪くなる”と区民からクレームが殺到。食用と明記していた部分については、子どもの虫取りなどは黙認する形だったからですが、そこを外し、“セミ等”とオブラートに包んでいた部分もさらに“昆虫”と変更。その後、通年で掲示をしております」(担当者)

食文化としてのセミ食は否定すべきではない

 セミを大量に捕獲することに加え、“食べる”という点がセンセーショナルに映ってしまうようだ。昆虫料理研究家でNPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長、NPO法人食用昆虫科学研究会理事の内山昭一氏は、

「今回のニュースがあって、コオロギ給食の事案のように“昆虫食”全般への逆風となることを懸念しています」(内山氏、以下同)

 と語る。

 内山氏によると、セミを食べる食文化はタイや中国に多くあり、東南アジアと文化的に近い沖縄地方にもあるそう。長野にも「イナゴ」「蜂の子」「ざざ虫」の甘露煮といった高級珍味もあり、日本における昆虫食文化は奈良時代にまでさかのぼるといわれている。

“セミは中国や東南アジアの郷土食であり、ふるさとの味として楽しむ行為は否定すべきではない”と内山氏。

「たしかに販売目的で毎夜毎晩、何百匹単位のセミを乱獲し、食材店などで販売しているとすれば、それはよくないことだし制限すべき。ただし、今回の報道への反応は、日本における外国人問題のような政治的な要素もあるのではないか。セミ食などの昆虫食自体をそれらと混同して語るべきではないし、各地の食文化を否定すべきではありません。アリストテレスはセミを美味しいと言い、ファーブルも『昆虫記』のなかで試食している。井伏鱒二は小説『スガレ追ひ』のなかでセミは美味しいと書いている。温暖化など地球環境問題に関連して昆虫食が話題になっており、自然環境教育の一環として身近なセミを食べる行為を否定してほしくない」

 ちなみに内山氏がおすすめするセミの調理法は“ナッツのような味わいの幼虫なら燻製、成虫ならサクサクとした歯ごたえが楽しい素揚げ”だそう。ビタミンBが豊富なセミは夏バテにぴったりの旬の食材だといえる。

「小中学生の夏休みの自由研究のテーマとしても人気です。問題になるような乱獲は絶対にしてほしくないが、夏の新鮮なうちに一度、味わってみませんか」

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。