「肉体的援助」ってなんじゃこれ? 中川淳一郎が“あらぬ妄想”をしてしまった言葉の本当の意味

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 ヤフーニュースのトップに「ロッテ痛恨 肉体的援助でアウト」という記事が掲載されました。6月29日のことです。スポーツカテゴリーゆえ千葉ロッテのことだとはすぐ分かりましたが、「肉体的援助」ってなんじゃこれ? 配信元の野球専門メディア「Full-Count」はこう報じます。

〈2点を追う7回無死一、三塁。ネフタリ・ソト内野手が右中間へ二塁打を放った。ポランコは三塁を回ろうとしたが、大塚明外野守備兼走塁コーチが慌てて止めたところ接触。その後、アウトと判定され、審判が「三塁コーチャーが肉体的援助。アウトと致します」と説明した〉

 肉体的援助とはこの場合、コーチによる「ランナーを助ける行為」ということのよう。英語で「physical assistance」と言うらしいです。私はてっきり「買春にあたる『援助交際』をした選手がバレてアウト判定、謹慎したか逮捕でもされてチーム痛恨?」みたいな話かと誤読しかけました。

 実際は性的な絡みなど一切なく、あくまでも三塁コーチ(の体)がしゃしゃり出過ぎてルールに触れた、ということのようです。

 肉体的援助、もっとマシな訳はなかったものですかね。「走者不正アシスト」でもいいのでは。アメリカとの戦争中、日本の球界は英語を敵性語として、ストライクを「よし」、ボールを「だめ」と言い表しました。打者の感覚からすると前者がだめで後者がよしなのですが、とにかく英語が疎まれた時期だったのですね。

 それがため日本の野球には現在もなお、ギリギリ英語で通じそうな行為に日本語が充てられています。Stealは「盗塁」、Runs Batted Inは「打点」、Home Runは「本塁打」で、ERAは「防御率」。さらにHit by Pitchが「死球」などです。

 このようにアメリカの用語を巧みに日本語化してきましたが、さすがに「肉体的援助」はいやらしい内容以外、まったく想像がつきませんでした。

 別のスポーツで無理やり日本語を当てはめるとどうなるのか――。

 たとえばサッカー。

□フォワード→前線攻撃人、先頭敵陣突破員

□ゴールキーパー→本営守備人、本丸守護者

□リベロ→攻守両用要員

□ドリブル→敵陣疾走切り込み

□ペナルティーキック→制裁的球蹴り

□ヘディング→頭部操球術

□ループシュート→空中浮かせ得点意図蹴り

□コーナーキック→隅始発得点機会創出蹴り

 ボクシングだとこうです。

□ストレート→直拳

□アッパー→下顎拳

□ジャブ→様子見拳

 正直、こうして日本語を墨守すると、むしろ分かりにくくなるんです。昨今、日本では「サブスク」「プライム会員」「アプリ」「スマートフォン」など英語をベースにした単語がキチンと定着しているではありませんか。スマートフォンを「賢明電話」「理知的受発信機」なんて訳しても、よく意味が分かりません。

 もちろん、ルーズソックスを「だらしな靴下」とか「意図的ゆるゆる靴下」と表現しても、テレビを「遠隔映像再生機」としてもよかったのではありますが。

 とはいえ、英語由来の用語を今一度、もっと評価すべきではないでしょうか。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年7月17日号掲載

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