髪を洗って爪まで切って、ご奉仕もするヒモ暮らし… 四十手前の「クズ男」を動かした女性の言葉

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そして“ヒモ暮らし”がはじまった

 大学にはなじめないのに、音楽や写真撮影に明け暮れ、夜は酒にまみれて女性のところを泊まり歩くような生活にはすぐになじんだ。まるでヒモ生活だ。

「そうそう、ヒモでしたね。でもヒモも案外、楽じゃないんですよ。家事をやったり、疲れて帰ってくる彼女にマッサージしたり……。食べるものと寝るところは女性に依存していたけど、それ以上のことを返していたと思う。いろいろな意味で女性に気持ちいい思いをさせたから。マッサージもそうだし、毎日、髪や体を洗ってあげたり、爪まで切ってあげましたよ。もちろん性的なことだって彼女の希望通りに身を粉にして働きました」

 食事と寝るところのためにそこまでするなら、働いて部屋を借りたほうがよさそうな気もするが、彼はひとりぼっちが嫌なのだという。たまにひとりで羽を伸ばすのはいいが、毎晩、ひとりで寝るのは耐えられないと。どれだけ甘えん坊なのか呆れるほどだが、ある種の女性にとっては「かわいい男」かもしれない。

「週のうち半分はジャズクラブ等で手伝いをして朝まで先輩たちと遊び歩き、あとの半分は当時つきあっていた女性のところに泊まる。そんな感じの生活でしたね。昼間は音楽関係の先輩に写真撮影の仕事をもらったりしていました」

 女性は頻繁に変わった。だいたい半年から1年のサイクルで、泊めてくれる女性が代替わりし、帰る家も方角が異なっていく。たまに忘れて前の女性の家に帰って追い出されることもあった。それでも泊めてくれる前の女性もいたというから、なかなかの女たらしである。確かに憎めない感じなのだ。ニコッと笑った顔が今でも愛嬌があるし、根っから女性が好きだという言葉にも嘘はなさそう。

「20代はずっとそんな生活だった。妊娠した、あなたには迷惑をかけない、ひとりで子どもを産むからと言った女性もいた。そういう女性からはさっさと離れたけど、今になると胸が痛い。大人同士の関係なら、多少冷たく別れても気にならないけど、本当に妊娠したのだとしたら、オレ、とんでもないことをしたと思う」

どこかに留まると腐っていく

 そのときの彼女の妊娠は嘘だったとあとでわかった。だが、どこかに自分の子を宿してひっそりと産んだ女性がいるのではないか。彼はずっとそう思ってきたという。ちゃらちゃらしたいいかげんな生活をしてきたとは思っているが、「根っからのワルではない」と自分で言う。

「本当はまじめにきちんと生きられたらいいのにと思うことがありますよ、オレだって。正社員として大きな会社に勤めて、上司の悪口を言いながら、それでも仕事にやりがいなんてものを感じたりもして。適当な年齢で結婚して子どもふたりくらい育てて、成長していくのを楽しみにして家に帰って。そんな生活に憧れたこともある。でもダメなんですよね、どこかに留まると自分の中から腐っていくような気がしていても立ってもいられなくなる。常に流れて、新しい場所に行って、新しい人に出会って……」

 大阪や九州、北海道などでも暮らしたことがある。どこにいても音楽と写真、女性はセットだった。そして決して「金持ちにはなれない生活」を自ら選択していたと彼は笑った。

「35歳くらいのとき、東京にいたんですが、酔っ払って飲み屋の階段から落下し、あちこち骨折したんです。もう人生、これで終わっちゃってもいいなと思いました。生きる気力がなかったんですよね、生まれ落ちてからずっと」

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