エンゲル係数は43年ぶりの高水準で「世帯年収1000万円超」でも“生活が苦しい”…参院選を左右する「日本が先進国ではトップクラスの貧困層」に転落した背景
参院選は7月20日に投開票される。そうした中、毎日新聞は6日、「中絶よぎった『3人目』 世帯年収1200万円でも悩んだ母の決断」との記事を配信、SNSなどネット上では内容に共感する投稿が殺到した。取材に協力したのは関東地方に住む50歳の女性。世帯年収は約1200万円と日本では上位1割に入る高収入層だ。しかし記事では非常に苦しい生活がリアルに報じられている。(全2回の第1回)
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大前提として、子育てに関する公的支援の大半が所得制限に引っかかる。さらに所得税と社会保障費の負担は大きく、1200万円の収入は手取りだと800万円に減少。住宅ローンや大学に通う子供の仕送りを払うと、月に使える額は20万円台に過ぎない。そこから光熱費、食費、教育費を捻出する必要がある。
記事の見出しで「中絶」の単語が使われている理由は、3人目の子供を妊娠したと分かった時、女性が「3人分の教育費は確保できない」と判断したためだ。
女性は手術を受けるため病院に足を踏み入れたが、最後の決心が付かずに断念。3人目の子供は小学生となり、産んだことは全く後悔していない。だが、予想通り経済的な負担は重くのしかかっている。
Xでは《3人産めと言ったヤツ 現実はこうだぞ……》、《社会保険と租税負担で余裕なんてあるはずない》、《年収1200万円で単身赴任と子ども2人の子育てを経験しましたが、自転車操業で2人産んだ事も後悔した》──このような投稿が殺到している。担当記者が言う。
「参院選の主要争点の一つとして、大手メディアは『物価高』という単語を使っています。しかし本当のところは『生活苦』の単語を使うべきでしょう。近年の特徴は毎日新聞が報じたように年収800万円から1500万円台といった高所得の世帯ほど、生活が非常に苦しくなっているという点です」
先進国ではトップクラスの貧困
あるエコノミストは「大企業の場合は辛うじて賃上げを実施しているが、それでも税金、医療・介護・年金の負担には追いついていない」と興味深い指摘を行っている。
詳細を見てみよう。厚生労働省が7月7日に発表した「5月の労働者1人あたりの現金給与総額」は30万141円。41カ月連続でプラスとなってはいるが、実質賃金は5カ月連続のマイナスだ。
「大前提として物価の上昇に賃金の上昇は追いついていません。例えば今、注目を集めているのはエンゲル係数の高さです。家計支出における食費の割合を表し、係数が高いほど『食うだけで精一杯』の世帯が多いことを意味します。日本における2024年のエンゲル係数は28・3%と1981年以来43年ぶりの高水準に達しました。食費を捻出するだけでも大変だという状況が浮かび上がりますし、これに加えて税金と社会保障費を負担する必要があります。『日本国民の貧困状況は先進国ではトップクラス』と指摘する専門家もいますが当然でしょう」(同・記者)
さらに所得税や社会保障費は基本的に、収入が増えるほど負担も増す。日本人の平均年収は460万円だが、やはり年収500万円を超える世帯から切実な生活苦、税金や社会保障費の重い負担感が訴えられるようになり、年収800万円から1500万円の現役世代が最も悲鳴を上げている。
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