「パパ」「ママ」と呼び合う夫婦に“昭和の恋愛観”が刺激を… 令和に響く新ドラマとは
太宰治の『人間失格』はわが家になぜか3冊ある。急に読みたくなるも見つからずに購入、を繰り返したか。太宰ファンではないが、「これは自分のことだ」と思わせる冒頭部分を読むたびに、脇の下にじわっと汗をかく。誰もが人生で一度はハマる『人間失格』。そんなくだりもあるWOWOWの単発ドラマ「おい、太宰」の話だ。
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主演は田中圭。私事でいろいろやらかして四面楚歌だが、巻き込まれて困らせられて悶々とする役は十八番(おはこ)であり、個人的には垂涎(すいぜん)。不惑だというのに、幼児のようにむずかることができるのは宝でもある。
田中が演じるのは構成作家・小室健作。妻美代子(宮澤エマ)の友人の結婚式に出席した帰り道、太宰治が心中未遂を起こしたといわれる浜辺にたどり着く。心中の相手はカフェの女給。小室夫妻が訪れたのは奇しくも同じ日で、太宰ファンの小室は大興奮。浜辺の洞窟に入ってみると、その先はなんと昭和5年。タイムスリップした小室が遭遇したのは、まさに心中しようとしていた太宰(松山ケンイチ)とトミ子(小池栄子)だった、という設定。
太宰治を写真でしか見たことがない。でもきっと女心をくすぐる虚無感と、鼻につくきざったらしさと面倒くささ、それでいて素朴な色欲が渾然一体となった男なのだろうと思う。これを見事に再現したのが松ケンだ。なんだかムカつくけれど、津軽弁でストレートに口説かれたら、胸ときめかずにはいられんだろうな。松ケンが醸し出す無二の太宰感。いい仕事しとるわぁ。
女二人も最強の布陣。三谷幸喜が描く「図太さと脆さが同居する女」をエマと小池が体現。どこまでが演出か分からんが、動きや仕草がとにかくおかしくて。特に、トミ子が布袋寅泰を聴いたときの小池のけいれんには笑いが止まらなかったよ。
で、タイムスリップという超常現象を立証するために必須の人物がいる。梶原善が一人3役を演じた打雷父子だ。現在と過去を行ったり来たりするのだが、どっちの世界にも存在し、小室がうっかり関わる羽目に。
梶原はこのシリーズ(三谷幸喜監督・ワンシーンワンカット撮影のドラマ)3部作すべてに出演。山中で撮影した「short cut」(2011年)では鈴木京香の幼なじみ役。空港で撮影した「大空港2013」(2013年)では石橋杏奈の彼氏役。不穏さと不審人物感がなんというか丁度いい。
今作は3役で、早着替えと移動が激しく、最も過酷だったと思われる。洞窟のこっちと向こうで異なる人物を演じるわけだから、還暦間近の梶原はさぞやお疲れ……なんてことはみじんも思わせないハイテンションで打雷父子を熱演していた。
海っぺりを舞台に少数精鋭で展開するドタバタSFコメディーだが、昭和の、虚無的で野蛮ともいえる恋愛観が、令和の夫婦を刺激する構図は好物だ。夫婦が互いに「パパ・ママ」と呼ぶ関係が示唆する倦怠感。そこに太宰という毒が盛られてハレーションを起こすのよ。
7月11日から上映の劇場版はドラマとは違う結末だと知り、ウズウズしている。







