ぶりっこを演じる森香澄を、なぜ人は「賢い」と評価したくなるのか 「あざとい女を正しく評価する」という自己演出が
「あざとい」キャラでブレイクし、バラエティー番組などで活躍する元テレビ東京アナの森香澄。一見嫌われそうな役回りにも見える彼女だが、SNSなどでは意外にも「計算高さも含め魅力的」「あざといキャラに振り切ってて逆に好感」のように好意的なコメントが多いのだ。ライターの冨士海ネコ氏はこの現象の背景には、「森香澄を評価している自分をアピールしたい層」の存在があるのではないかと指摘する。
***
【写真】「令和のあざと女王」の面目躍如! セクシー&キュートな「森 香澄」の“あざとショット”選
「あざとい」「ぶりっこ」「小悪魔」──かつてなら嫌われる女性の代名詞だったこれらのワードが、2020年代の芸能界ではむしろ武器になる。元テレビ東京アナウンサーの森香澄さんは、その最右翼に立っている存在だ。
森さんが女子アナとして局に所属していた頃から、彼女はどこか「報道志向」や「真面目さ」といった、女子アナに求められがちなイメージとは一線を画していた。アイドル顔負けのルックスを生かし、バラエティー番組に積極的に出演。さらには、自らのInstagramではアナウンサーらしからぬポーズの自撮りも惜しみなく披露し、「タレントになりたいのでは?」という周囲の臆測すら受け入れていた。そして2023年、テレ東を退社。退社以前には、先輩アナへの不満を語ったとされる音声がネットに流出するなど、その素直過ぎる本音も話題となっていた。
だが、驚くべきはその後である。従来の女子アナは、女性ウケを少なからず意識した自虐ネタにいくケースが多かったが、森さんの自虐は正反対だった。「男性にすぐ告白されてしまうので、男友達がいない」という悩みを千鳥・大悟さんに相談し、モテキャラとしての立ち位置を確保。自分をいかにかわいく見せるかということに長けていることを売りにし、今では「彼氏がフォローしていたらイヤな有名人」として、森さんの名前は一番に挙がるようになった。
しかし批判を受けるどころか、「そういう計算高さも含めて魅力的」「あざといキャラに振り切ってて逆に好感」と、世間の評価は一転。先日はソフトバンク戦で始球式に登場し、サプライズ披露した「きつねダンス」がSNSで拡散されネットニュースになると、称賛のコメントが多数寄せられた。
だが、彼女を評価するコメントには奇妙な共通点がある。
「森香澄が計算してるのは分かってるけど、こういう女性が嫌いな男性はいない」「世間に嫌われるキャラに振り切るあざとさってむしろ賢い」「世間の風が読めて賢い女性。男にこびてるって嫌ってる女性の方がバカ」「わたしは女性だけどあざとさを演じ切れる森さんのこと好きです」……これらの声は、まるで森香澄という存在そのものではなく、「森香澄を評価している自分」を声高にアピールしたいかのようだ。
思い出されるのは、森と同じく「あざとかわいい」の代名詞として注目された田中みな実さんや、乃木坂46を卒業後タレントに転身した松村沙友理さんの存在だ。田中さんはTBS在籍時、カメラ目線でソーセージを食べながら「おっきい~」とコメントする食レポなど、振り切った「あざとさ」で知名度を獲得。退社後の2020年に発売したファースト写真集「Sincerely yours...」は50万部を突破する大ヒットを記録した。自身のイメージを逆手に取った「あざとくて何が悪いの?」(テレビ朝日)も人気番組となり、アジア圏でもよく見られているという。
一方の松村さんもまた、アイドル時代にスキャンダルも経験しながら、その「守ってあげたい」ふわふわしたしゃべり方や絶妙な抜け感、そして色白で愛らしい美貌で女性からの支持を獲得した。
共通するのは、「ぶりっこ」がキャラとして機能していること、そしてその裏に知性や戦略性があると「見抜いた」人々からの称賛が集まっているという点だ。彼女たちの躍進によって、「あざとい」は褒め言葉となり、「あざとかわいい」なる流行語も誕生した。
だが、森さんのケースには、それらとは異なる空気が流れていると思う。田中さんや松村さんが、現役時代に一定の批判や炎上を経て愛されるようになったのに対し、森さんには「最初から嫌われるのを計算して、計算し尽くして愛されている」ような印象がある。これは森さん自身の「賢さ」というよりは、むしろ世間の彼女に対する「賢さを見いだしたい」という欲望の表れのようにすら感じられるのだ。
次ページ:田中みな実、あのちゃん、そして森香澄に向けられる視線の共通点 「あざとい」キャラではなく、「キャラを評価できる自分」が賢い?
[1/2ページ]


