「あんぱん」敗戦後に視聴率「1%」アップの理由 計算し尽くされた「中園ミホ氏」の脚本
敗戦後に視聴率アップ
手に汗握るようなシーンの多かった60回までの敗戦前より、61回以降の敗戦後のほうが視聴率は上がっている。第60回までの平均世帯視聴率は15.5%だったが、第61回から第70回は16.5%である。
1%アップしたということは関東で18万世帯、観ている世帯が増えたいうこと。期間最高の17.8%を記録したのも敗戦後の第68回だった。
視聴率が伸びた理由はいくつか考えられる。その1つはのぶの末妹・メイコ(原菜乃華)の出番が増え、第69回からはのぶと同居しているからだ。
メイコは明るく朗らかで敗戦後のムードに合っている。敗戦前はしっとりした雰囲気の蘭子の出番が多く、敗戦後は快活なメイコが目立つ。これも中園氏の計算だろう。
メイコは上京して「のど自慢」に出たいと言っていたが、ひとまず高知市内でのぶと同居し、働くことになった。ドラマ的にものぶには同居人が必要だったのである。
のぶは次郎と第62回に死別し1人暮らしになった。誰かと同居しないと、独り言の連続になってしまう。それではドラマがつくりにくい。朝ドラのヒロインの多くが誰かと同居するのも同じ理由である。
のぶと同期の小田琴子(鳴海唯)の存在も大きい。典型的なコメディリリーフだ。社内では有能でおしとやか。仕事を離れると豪胆。酒が入ると度胸満点となる。
琴子の変身が愉快なのは鳴海がうまいからである。コメディは難度が高い。その点、鳴海は既に4本の映画に主演している。村上春樹氏原作のNHK「地震のあとで」第2回「アイロンのある風景」(4月12日)でも主演した。
11日放送の第75回では「月刊くじら」の東海林明編集長(津田健次郎)、のぶ、嵩、岩清水信司(倉悠貴)が出張先の東京で食中毒になった。闇市のおでんのせいだ。
嵩のモデル・やなせたかしさんの著書『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)によると、これは本当の話。当時、おでんは珍しく、男3人はカマボコ、はんぺん、卵などを喜んで食べた。のぶのモデルである小松暢さんは男性陣に気を遣い、ありふれた大根など野菜のみ口にした。
その結果、男性陣は食中毒にかかる。医者に診てもらったものの、やなせさんたちは2日以上寝込んだ。
野菜だけの暢さんは平気で、3人を看病した。「3人が助かったのは小松記者が健在だったおかげだ」(同)。この食中毒事件により、4人は期限内に帰郷できなかった。
このころから、やなせさんは暢さんへの思いを深めていく。一方で暢さんは死別した夫・総一郎さんの姓だった小松ではなくなる。





