「あんぱん」敗戦後に視聴率「1%」アップの理由 計算し尽くされた「中園ミホ氏」の脚本
同条件での平均視聴率
朝ドラことNHK連続テレビ小説の視聴率が不調との報道がある。本当だろうか。また、第13週(第61回)からの敗戦後編は視聴率が目に見えて上がっているが、どうしてだろう。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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【写真】「キラキラ」「かわいすぎ」と大反響…今田美桜が投稿した「あんぱん」オフショット。色気ムンムンのノースリーブ姿も
朝ドラの視聴率を比較する場合、同じ放送回数をデータに使うのがセオリー。当たり前である。朝ドラの大半は最終回に向けて視聴率が伸びるのだから。
ところが「あんぱん」の場合、放送を半分以上も残した段階から、過去の作品の全回平均視聴率と比較されていた。これが視聴率不調とされる理由の1つだ。
第70回(7月4日放送)までの世帯平均視聴率(関東地区)と過去作品の同期間の数字を比較してみたい。
なお、「あんぱん」の第70回は柳井嵩(北村匠海)がヒロイン・若松のぶ(今田美桜)の勤務する高知新報の入社試験を受けた。(ビデオリサーチ調べ、関東地区)
■あんぱん(2025年度前期)15.6%
■おむすび(2024年度後期)13.6%
■虎に翼 (2024年度前期)16.6%
■ブギウギ(2023年度後期)15.7%
「あんぱん」と「ブギウギ」の差は0.1%しかない。そのうえ、高知新報が夕刊の発行を中止した7月2日放送の第68回では期間最高の17.8%を記録した。
この数字は「ブギウギ」の期間最高である17.3%を超えた。「舞いあがれ!」(2022年度下期)の同16.9%にも勝る。「ちむどんどん」(同上期)の同17.6%も上回った。
さらに最近はかなり多く17%台に達している。これでも視聴率不調なのだろうか?
第70回までの15.6%という平均視聴率が平凡なのは間違いない。序盤の視聴率が伸びなかったからである。「おむすび」ファンには申し訳ないが、その終盤の視聴率があまりに悪かったためだ。
「おむすび」の最後の2週間は世帯視聴率の平均値が12.1%。これが「あんぱん」に影響したと考えるのがテレビ界の常識である。どんな放送枠であろうが、前番組の視聴率を引きずる。視聴習慣である。
1度他局に流出してしまった視聴者は容易には戻らない。「朝ドラを観ない生活」に慣れてしまう。むしろ「あんぱん」は短期間でよく視聴者を呼び戻したものである。
「あんぱん」に共感しないという人もいるようだが、それは当然のこと。映画もドラマも共感するか否かは観る側の性別、年齢、職業、生育歴などによって異なる。
たとえば高知県民はこの物語をほかの地域の人よりはるかに多く観ている。同郷人として共感するからだ。3月31日に放送された第1回高知地方の世帯視聴率は26.2%だった。
ドラマの質を計るのは、時代や国を問わず、「1に脚本、2に俳優、3に演出」。「あんばん」の場合、そのいずれも優れていると言える。特に脚本の中園ミホ氏(65)による構成は出色というほかない。
構成が優れていたのは序盤からだった。象徴例がパン食い競争が用意された第11回と12回。1927(昭2)年という設定だった。
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