【べらぼう】福原遥が演じる花魁「誰袖」 本当に田沼意次の長男に身請けされたのか
「三人の女」とはだれか
NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の第26回(7月6日放送)のサブタイトルは「三人の女」だった。「三人」とは、1人は蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)の妻になった「てい」(橋本愛)で、もう1人は吉原の十文字屋の花魁、誰袖(福原遥)に違いない。
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では、もう1人はだれだろう。この回から登場し、蔦重の日本橋の店に住みついた蔦重の実母「つよ」(高岡早紀)だと考えるのが順当だろう。この実母については、蔦重の菩提寺の正法寺(東京都台東区)にある供養碑に刻まれている。もともと、いまでは失われた墓碑に刻まれていたもので、現代語訳が正法寺のホームページに記されている。
「実母顕彰の碑文」の現代語訳によれば、「諱(いみな)は津与、江戸の人である」。「柯理(註・蔦重のこと)が来て言うには『私は七歳で母と別れさみしい思いをしたが後に再会し一緒に暮らすことができて今の自分がある』」とのこと。『べらぼう』で高岡早紀が打ち出す「つよ」の江戸の女性らしさには、根拠があるのである。
だが、もしかしたら脚本家が想定する「もう1人の女性」は、この「つよ」ではなく、歌麿(染谷将太)かもしれない。蔦重に「恋心」をいだいていると思われる歌麿は、蔦重の妻の「てい」に嫉妬している。そして、「歌麿門人 千代女」という名で絵を描き、「何で、女名になってんだよ?」と蔦重に聞かれると、返答は「生まれ変わるなら、女がいいからさ」。やはり「もう1人」の女性は歌麿なのではないか。
いずれにせよ、3人のうちの1人が誰袖であるのは間違いない。彼女は、花雲助という名で、忍びで吉原を訪れている田沼意次(渡辺謙)の嫡男、田沼意知(宮沢氷魚)に身請けしてもらうのを待ち望んでいる。このあたり、どこまでが史実と重なるのだろうか。
田沼意知に身請けされるが
第26回での意知と誰袖との会話はこうだった。
誰袖「当分、おいでになれぬ!?」。意知「とにかく米の値が下がるまでは、遊興も控えろと」。誰袖「仮の名で、しかも月に1度のお越し。バレるとも思えんせんが」。意知「近々、若年寄になるということもあってな。しかし、かような折ゆえ、風当たりが強くなることは必至でな」。誰袖「それでは、身請けの話は?」。
誰袖は二言目には「身請け」を口にするが、実際、借金の担保として女郎屋に売られた女郎にとって、客が身代金を支払って女郎の身柄を引き取る身請けは、過酷な吉原から抜け出す、唯一の合法的な道だった。また、身代金は事実上、女郎屋の言い値だったので、女郎屋にとってもありがたいことだった。
そして、『べらぼう』での誰袖は、意知から身請けの約束を引き出していた。意知らは蝦夷地を幕府の直轄領にしたい。それには、蝦夷地を管轄する松前藩に領地を差し出させる必要があり、松前藩に難癖をつけるために、彼らの密貿易の証拠を集めたい。そこで、誰袖が情報収集に協力し、うまくいったら意知が「身請け」するというのである。だが、ドラマでは、この2人は逢瀬を重ねるうちに、たがいに思い合うようになっている。
そして、第27回「願わくば花の下にて春死なん」(7月13日放送)では、意知は勘定組頭の土山宗次郎(栁俊太郎)の名で、いよいよ誰袖を身請けするように手配。その後、武家の女性の衣装に身をつつんだ誰袖は、大文字屋を去る。彼女は意知と、花の下で月を見る約束をしているようだが、意知は江戸城中で佐野政言(矢本悠馬)に斬りかかられ、屋敷に運ばれるが命を落とすことになる。
しかし、意知と誰袖との関係は、史料等では一切確認ができない。
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