「さがり」を叩きつけ、感情がむき出しに…大相撲・名物実況アナが即答した忘れられない一戦

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藤井康生アナ、インタビュー第1回

 NHKで長年大相撲中継を担当してきた藤井康生アナウンサー(68)が、初の著書『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(東京ニュース通信社)を上梓した。16万字の執筆に挑んだ1ケ月間は「人生で最も集中した期間」だったという。相撲愛あふれる1冊は、中継でのエピソード、力士や親方の素顔が満載だ。(全5回の第1回)

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 執筆のきっかけは、岐阜県にいる知り合いから、出版関係者を紹介してもらったことです。その方から「書いてみませんか」と言われ、割と簡単に引き受けてしまいました。

 しかし、いざ書き始めてみると、大変なことだと分かりました。400字詰め原稿用紙1枚程度なら時間はかからないでしょうが、最初に聞かされたのは16万字、書籍にして200ページから250ページという数字でした。パソコンで書き始めても文字数が全く増えず、16万字どうやって書くんだと焦り始めましたね。

 昨年の春頃に書き始め、当初は大相撲が開催される9月か11月の発売を目指していたのですが、難しそうだと分かったのです。ものすごく焦り、8月は他の仕事を一切入れず、執筆に専念する月と決めました。朝5時には目が覚め、2時間ほど執筆し、朝食後にまた午前中何時間か、そして昼食後も続けるという生活でした。

 長い日には1日10時間もパソコンに向かうこともありましたね。短い日でも4時間は取り組みました。他の仕事がないため、ほぼ無収入で1ヶ月フリーというのは本当に大変でした。

 8月末で書き終えたのですが、そこから相撲の専門用語についての修正などのやり取りに時間がかかってしまいました。結局、当初の予定通りには出せず、今年の3月にようやく発売になった次第です。あの8月は「こんな仕事。二度とやりたくない」と思いながらずっとやっていましたね。

 とにかく調べ物が多かったのです。「史実を間違ってはならない」「誤りを書いてはならない」という一心で、大相撲の膨大な歴史や、数字一つ一つを間違えるわけにはいきませんから、ひたすら調べました。

 根拠のないことは書けませんから、裏取りも必要でした。自分自身の蓄積も当然ありますが、公式記録に頼るべきところは協会にお願いするしかありませんでした。適当なことを書くなら簡単ですが、適当にできないというのは大変なことですね。

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