藤井聡太棋聖に挑んだ遅咲きの棋士「杉本和陽六段(33)」 決戦を機に明かした師匠「米長邦雄永世棋聖」の凄すぎる洞察力と勝負師としての矜持
充実した時間を長く味わいたい
目の前の苦しい状況を乗り越えるために、杉本三段(当時)は「振り飛車」転向を決断。「試合の数日前には憂鬱な気分になり、吐き気を感じることも少なくなかった」日々の中でも、研究会の参加などの職人的な手法で腕を磨き、25歳でようやく四段に昇格。プロ棋士の仲間入りを果たした。
今期の棋聖戦では、杉本五段(当時)は一次予選からの出場だったが、厳しい試合をものにして勝ち上がると、決勝トーナメントでは実績で上回る山崎隆之九段や永瀬拓矢九段らを撃破。初のタイトル挑戦のチャンスを掴んだ。6連覇に王手をかけた藤井聡太棋聖との棋聖戦第3局に挑む直前には、こう覚悟を語っていた。
「ここまで負けが先行してしまいましたが、『この充実した時間を少しでも長く味わえたらな』という思いです。このような機会を与えていただけたことに感謝しながら、対局をご覧いただいている方に『面白い』と思っていただけるような将棋を指し切りたいと思っています」
杉本氏は今回の棋聖戦で、「終盤に差し掛かるタイミングでエネルギーを補充できる」と話すカツサンドを、午後の“おやつ”として注文。「疲労が溜まっているタイミングなので、これまでの人生で食べたどのカツサンドよりも美味しく感じましたし、一口食べただけで疲れが取れるような感覚がありました」と“ソウルフード”に舌鼓を打った。
己の個性を磨いて晴れ舞台に臨んだ33歳は、「僕にとって欠かせないメニュー」と話すカツサンドの縁起にあやかったが、終盤で力負けし、白星を挙げることなく大舞台を去った。
対局を終えて「またこの舞台に戻ってこられるように精進したい」と未来を見据えた苦労人の捲土重来なるか。今後の対局にも目を向けていきたい。
第1回【33歳でタイトル戦に初挑戦 「藤井聡太棋聖」との対局で話題の棋士「杉本和陽六段」が振り返る“沼にハマった下積み時代”】では、杉本六段が、棋士になることを志し、勉学と将棋の両立に悪戦苦闘していた中高生時代などについて語っている。


