8割が行き詰まる都市再開発 巨額の税金が見通しゼロの「タワマン」「ハコモノ」に…有権者はもっと怒っていい

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人口増加時代のスキームが見直されない

 なぜいまどき、こんなスキームで都市再開発事業が進められるかといえば、都市計画法と都市再開発法という、時代遅れの法律が根拠だからである。制定されたのは前者が1968年で後者が69年。高度経済成長の真っただ中に、人口の絶え間ない増加を前提に定められた法律であることはいうまでもない。そこに規制緩和策が加わっている。

 最悪なのが、小泉純一郎政権下で進められた規制緩和策だった。小泉政権といえば「構造改革」が旗印で、非正規労働者を激増させた規制緩和が悪名高い。だが、都市再開発に関しても日本を破壊したという点で負けてはいない。

 2002年に制定された都市再生特別措置法は、こんな具合である。国から「都市再生緊急整備地域」に指定されると、容積率などの規制が大幅に緩和される。さらに、自治体から「都市再生特別地区」に指定されると、用途地域や容積率などについての規制が、ほとんどすべて除外され、民間事業者が、いわば好き勝手に開発できる。しかも、国や自治体の補助金まで得て開発できるのである。

 この規制緩和の建前は、むろん「公共性」にあり、「公共性」の範疇には住宅供給が含まれる。いわば「住宅をつくってくれるなら規制を緩和するので、自由に開発してください」という趣旨の法律なのだが、それが人口減少時代に適合するわけがない。

 2024年の出生数(確定値)は68万6,061人で、70万人を割ってしまった。100万人を割って衝撃が走ったのは2016年だが、それからわずか8年で3割も減少したのである。25年の出生数は65万人程度だともいわれる。日本の人口は30年後に1億人を割り込む、という予測があったが、20年後には割り込みかねない。

 それなのに、都市再開発事業はいずれも、住宅の供給増とセットになっている。都市再生特別措置法の適用地域であっても、そうでなくても、新たに供給される住宅の戸数が、都市全体や地域のなかでどの程度妥当かという検討は、一切ないまま進められている。

ディベロッパーの甘言の前のめりになる自治体

 しかも、国はこの期におよんで、こうした再開発事業をさらに支援している。冒頭で述べたように、資材価格の高騰などで、予定どおりに進まない事業が増えてきた。そこで、国は2022年に「防災・省エネまちづくり緊急促進事業 地域活性化タイプ」という支援制度をもうけた。要は、資金的に行き詰った再開発事業に財政支援をする制度なのだが、これによって、この手の事業の補助金への依存率はさらに高まってしまった。

 都市再開発は、現時点で大いなるムダづかいであるだけでなく、人口急減社会においては将来、維持するのも取り壊すのも困難な「お荷物」になるリスクが高い。地権者が「持ち出しなし」で済むとか、自治体の税収が一時的に増えるといった目先の利益を優先して、将来における私たちと子孫の負担を増やしていいわけがない。仮に、その再開発地区は繁栄が続いたとしても、人口急減社会おいては、そのぶん必ず、ほかの地域が過疎化する。

 ディベロッパーは、少しでも大きく高いビルを建てたほうが収益を得られる。彼らにとっては、売ってしまえばそれで終わりなので、将来の負担など考えなくてもいい。現在、全国で進められている都市再開発事業の多くは、自治体がディベロッパーの甘言に乗せられ、前のめりになって将来における住民の利益を損ねているという、滑稽だが笑えない構図である。

 だが、幸いにも現在、その多くが行き詰まっている。これを機に、人口が増えるのが前提だった時代のスキームで都市を再開発することが、日本の破滅につながる愚行であることを、国も自治体も認識してもらいたい。再開発事業への補助金の投入は、国を滅ぼすために巨額の税金が投じられている、ということにほかならない。有権者が激しい怒りの矛先を向けるにふさわしい大問題である。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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