中学校から「水泳」の授業が消える!? “事情”を教育委員会に聞いてみると
「1000万円単位」のコストが
今年もプールの季節がやってきた。ところが、夏なのにプールが使われない学校があることをご存じだろうか。最近、水泳の授業を“座学”に置き換える公立中学校が増えているのだ。水泳は小学校から中学2年生までが必修となっているが、実はプールでの実技でなくてもよい。
【実際の写真】沈んでいく船に子どもたちがしがみついて… 168人の命が失われた「紫雲丸沈没事故」
例えば2025年度から市内の中学校18校のうち17校で水泳の実習をやめたのは静岡県沼津市である。バルセロナ五輪で金メダルに輝いた岩崎恭子氏の出身地だ。
同市の教育委員会にその理由を聞いてみる。
「まず費用面での負担が大きいということがあります。学校のプールを使うのは6~8月ですが、2カ月間に何度か行われる授業のために、プールを淡水で満たして、ポンプで循環するなどの水質管理を続けなくてはなりません。水道代だけで100万円以上かかり、管理コストを含めると1000万円単位の出費になる。これらは税金で賄われてきましたが、必要な教育予算が他にもあるのに、コストがかかり過ぎるとの声がありました」(学校施設課)
日焼けリスク
もう一つの理由は、実習を行う生徒や教師の側にある。
「プールで生徒たちは直射日光を浴びることになります。日焼けリスクがあり熱中症対策もしなくてはなりません。最近ではWBGT(暑さ指数)という数値があって、これで授業を実施するかどうかも判断しなくてはいけない。また、プールの管理は教師が行っていますが、負担が重過ぎるという事情もあるのです」(前出の学校施設課)
最近では地域のスイミングクラブを利用する学校もあるが、全国的には限られている。
168人が命を落とした重大事故
そもそも水泳実習は1955年に起きた「紫雲丸沈没事故」がきっかけだったのはよく知られている。小中学生を含む168人が命を落とした反省から、水に落ちても浮いていられる技術が必要との声が高まり、始まったのだ。座学だけで習得できるのだろうか。
さらには、24個もの金メダルを獲得してきた、「水泳ニッポン」の将来も心配だ。スポーツジャーナリストの折山淑美氏が言う。
「水泳は、実際に自分が泳いだ経験があるから面白さが分かるスポーツなのです。だから、挑戦しようとする青少年も出てくる。教科書で済ませてしまったら、未来のスイマーは生まれるのでしょうか」
日本水泳連盟の鈴木大地会長も5月に「国民皆泳」を目指すとのコメントを発表しているが、「カナヅチ」の増加は止められるのか。



