「TACO」は「トランプはいつもビビって逃げる」 “略語”のビミョーに奥深い世界を考える(中川淳一郎)

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 ウォール街で TACO という言葉がはやっているらしいです。Trump Always Chickens Out の頭文字で、「トランプはいつもビビって逃げる」を意味します。

 トランプ大統領が高い関税を容赦なく諸外国に課すと宣言し、自らの支持層に“強いアメリカ”をアピールしながら、他国との協議や世界からの批判を受けて緩和を発表、尻すぼみになりがちなことへの揶揄です。

 日本の「このタコが!」にも似た、バカにした感が存分ににじみ出た言葉ですね。

 そんなトランプ氏自身もMAGA(Make America Great Again)と呼号するなど、略語はよく印象的なものになります。英語ではLOL(Laugh Out Loud=大笑い)、OMG(Oh My God!=おお神よ!)などがよく知られます。

 もちろん日本でも略語は多く、「Amazon Prime」は「アマプラ」。私が出演しているABEMAの報道番組「ABEMA Prime」は「アベプラ」ですが、時々この二つを間違えることがあります。Netflixは「ネトフリ」、スマートフォンは「スマホ」、旧型携帯=ガラパゴスケータイは「ガラケー」。サントリーのビール、プレミアムモルツは「プレモル」です。

 ただし、キリンの一番搾りは「イチシボ」にならず、アサヒのスーパードライは「スードラ」にならない。

 この分かれ目は何なのか。

 ドラゴンクエストは「ドラクエ」でも、ファイナルファンタジーは「FF」か「ファイファン」のどちらなのかで論争が起きたりも。

 野球用語では、ニュースで「ヘッスラの危険性」というタイトルを見てなんのこっちゃと思ったら「ヘッドスライディング」でした。

 熱心な野球ファンにはごく普通の言葉でも、ライトファンの私はヘッスラどころか「ドライチ」(ドラフト1位)すら10年ほど前に知って戸惑いました。

 この手の略称で「惜しかったな……」と思い起こすのが「コンビニ」です。1990年代前半、今では当たり前となったコンビニエンスストアの略称「コンビニ」は、さほど定着していなかったと記憶します。コラムニストの泉麻人さん、クリエイターのいとうせいこうさんの1990年刊の共著は『コンビニエンス物語』。コンビニではないのです。

 また、東海林さだおさんはこの頃、週刊朝日の連載「あれも食いたいこれも食いたい」で「コンスト」という呼び方を使っています。

 このコンストこそ、実は作法に従った正しい表記ともいえます。現在定着したコンビニは「簡便」の意味でしかない。「店」が入っていません。しかし、いかにコンストが正統な略し方でも、「スト」がのんき過ぎる語感だったせいか、定着することはありませんでした。泉さん、いとうさんのコンビニエンスも、コンビニに至る前夜的表現として歴史の海に消えました。

 再び野球用語になりますが、女性芸能人やグラドルが始球式に出た時「ノーバン始球式」とネット記事の見出しにつけるのはやめてもらいたい。「始球式で〇〇さんがノーバウンドでキャッチャーミットにボールを投げた」事象を表しますが、この見出しをつける編集者は「ノーパン始球式」と誤読させたい安直野郎。

 ただ、クリックを誘う効果は絶大かと思われます。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年7月3日号掲載

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