評判が衰えない「あんぱん」が正念場 「嘘」と「実」を違和感なく連結させられるのか

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正義の逆転の連続

 そんなことは考えもしない霧島は畳みかけた。

「国民学校の教師を辞めたのも進駐軍に軍国主義者としてマークされたからなのではありませんか」

 これにはのぶも語気を強めて反論した。悔悟から退職したためだ。

「私は子供たちに立派な兵隊さんになれと説き、何人もの教え子を戦争に仕向けてしまいました。純粋な子供たちに間違った教育をしてしまいました。ですから、もう2度と教壇に立つ資格はないと思い、辞職しました」

 ここで中園ミホ氏の狙いに気づかされる。国家主義の教師から新聞記者への転身は現実的には難しいが、それを承知のうえで、この筋書きにしたのである。

 教育界と同じく、敗戦後に正義の逆転に翻弄されたのが新聞界。読売新聞、朝日新聞などの大幹部たちが追放された。記者も辞めた。新聞は世間の信頼を失った。

 連戦連勝という虚構の大本営発表を終戦までに計846回も報じたのだから仕方がない。この物語は正義の逆転に直面した人たちを切れ目なく描き、それによって柳井嵩(北村匠海)とのぶが見つける逆転しない正義の価値を際立たせようとしている。

 中園氏はのぶが暢さんの歩みを辿って、戦後は高知新報に入ることを早くから決めていたに違いない。ならば創作である敗戦前の前職は教師が格好だと考えたのだろう。正義が逆転する構図を存分に描けるからだ。高知新報がのぶを「愛国の鑑」と報じたのも中園氏の計算だったのである。

 のぶは面接終了の段階では不採用の判断が下されかけていた。高知新報としてはGHQに目を付けられたくない。だが、のぶに入社試験の受験を勧めた主任の東海林明(津田健次郎)が、霧島らに向かって吠えた。

「彼女は今の女性たちの代表と言ってもええ。戦時下の教育で多くの純粋な女の子たちが軍国少女になり、敗戦で自分たちの信じていたものが、いや、自分自身が墨で塗り潰されたがです」

 東海林は「世の中もオレもアンタらも変わらんといかんのでは」とも訴えた。敗戦前は多くの人が判断を放棄し、軍部の意向に流されてしまい、結果的に国は壊滅状態になった。戦後も判断力が欠落したまま、今度はGHQに流されていいのか。東海林はのぶを強く推した。

「責任はオレが持ちます」

 幹部記者がここまで言ったら、今も昔もかなりの確率で採用となる。のぶの入社が決まった。

 のぶの入社後の第67回、東海林はこうも言った。

「オレは新聞を信用していない。いい加減なことばかり書いた新聞にはほとほと愛想がつきとる」

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