「置き配」の標準化はインフラ崩壊の序曲 実行前にできることはたくさんある
原因を放置した小手先の弥縫策
現在、日本では深刻化している問題が多すぎて、優先順位をつけることすら難しい。そのなかでドライバーの不足は、まちがいなく上位にノミネートされる問題だろう。その原因については後述するとして、増え続ける宅配便の取りあつかい個数に対し、いまやドライバーが決定的に不足している。
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この状況を受け、国土交通省が検討をはじめたのが、宅配ボックスへの配達や玄関前に荷物を置く「置き配」を、宅配便の標準サービスにする、という見直し案である。不足するドライバーにとって、とくに負担になっているのが再配達で、国交省は今年3月までに、再配達率を6%に引き下げることを目指してきたが、4月時点で8.4%と目標達成には遠い状況となっている。
そこで、再配達をしないですむように「置き配」を標準サービスにし、手渡しをする場合は追加料金を徴収する、という方向で検討しているという。だが、この見直し案は、問題の原因を放置したまま小手先の弥縫策によって別の問題を生み出す、非常にまずいやり方であるとしか思えない。
手をつけるべき「問題の原因」について考える前に、「置き配」があらたにどんな問題を生じさせるか指摘しておきたい。
たしかに「置き配」で済むなら、現在、ドライバーにとって最大の負担になっている再配達が不要になる。再配達がなくなれば、ドライバーの負担が軽減され、配達車両の燃料費も少なくて済む。そもそも、呼び鈴を押して荷物の届け先と対話をする時間が省けるので、少人数で多くの荷物をさばけるようになる。
しかし、以下に述べるデメリットは、いま述べたメリットでは到底穴埋めできないのではないだろうか。
顧客満足度が大きく低下する
デメリットがいくつもあるなかで、最初に誤配送の危険性が指摘できる。筆者自身、他所の家への荷物が届けられ、違うと指摘した経験が複数回あるが、対面であれば誤りを指摘できる。しかし、大きな荷物や中身がデリケートな荷物だったら、それが誤配されればかなり厄介である。たとえば、旅行などでしばらく留守にしている家に誤配されれば、正しい受取先には、荷物がいつまでも届かないことになる。
荷物が屋外に置きっぱなしになれば、汚れてしまう可能性も増す。とくに戸建て住宅の場合、雨天のときには荷物が台無しになることも十分にありうる。受け取る側も気が気ではなくなるだろう。荷物が盗難に遭う危険性も高まる。
また、著名人や若い女性の一人暮らしなどで、あえて表札を出していない人たちのプライバシーが守られない。荷物に書かれた宛名から、そこにだれが住んでいるかがわかり、なんらかの権利の侵害や犯罪などに結びつく危険性も増す。
そもそも、宅配便の元祖であるヤマト運輸が1976年に「宅急便」を導入して以来、市場がこれほど大きくなったのは、顧客のニーズを大事にし続けたからではなかったか。ドライバーが地域に密着して顧客の声に耳を傾け、サービスを改善し続けたからではなかったか。
「宅急便」によって今日のヤマト運輸の礎を築いた小倉昌男氏は、利益の確保は二の次にして、顧客の利便性を追求してきた旨を語っていた。だから利益も上がった。時間指定や翌日配達など、顧客に便利なサービスを次々と導入し、荷物を追跡し配送状況を管理する情報システム(VAN)を構築した。結果として宅配便は、私たちの生活を支える重要なインフラのひとつになった。
しかし、「置き配」を標準サービスにしたら、顧客満足度は大きく低下する。前述したデメリットを考えれば、私たちは荷物が届くたびに不安をいだくようになる。そして不安が時に的中すれば、すなわちそれは、インフラのひとつが崩れたことを意味する。
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