TSMC工場設立で教員不足に…仕事を増やせば「豊かになる」は幻想だった 人は「投資」で幸せになれるのか

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「価格」と「価値」の違いとは

 金融教育は「お金を融通する」システムを教える場であって、投資教育ではありません。その中でひとつ、重要なのは、「価格」と「価値」の違いを教えることだと思います。

 例えば、僕はよく講演で「1000円の高級ジュースがディスカウントされ、500円のジュースをあなたが購入したとします。しかし、同じジュースが翌日300円になっていた場合、あなたは500円得したのか、200円損したのか、損も得もしていないのか」という問いかけをします。

 そこで考えてほしいのは「500円得をした」「200円を損した」のではなく、本来は「500円払って飲んだジュースが自分にとって美味しかったかどうか、幸せになったかどうか」という価値が大切なはずだ、ということです。

 各地で講演をしていると、大学生の中で「老後の不安」から早く資産運用を始めたいという声がよく聞かれます。奨学金を借りている女子学生が「早く返済して、さらに投資で増やしたい」と語るケースもありました。

 就職氷河期世代の親を持つ現在の若者たちは「いい会社に入らなければ幸せになれない」という価値観を引き継ぎながらも、「頑張っても報われるとは限らない」という現実も知っている。そんな中で何を頑張れば良いのかわからず、投資という道に魅力を感じる人も多い。

 投資というフィールドには、一般人には見えにくい「プロ」の存在があります。友達同士でやる麻雀と違い、情報格差がある市場で素人が勝ち続けるのは難しい。それでも運の要素があるため、時に儲かることもあり、「頑張れば儲かる」という幻想を抱いてしまう。

 これからの時代は雇用が流動化して、終身雇用も減っていくでしょうし、転職して給料が上がるケースも増えていくでしょう。人手不足もより深刻化し、個人にとっては「頑張って働けば報われる」時代になっていく。にもかかわらず、自分を磨くための大学での時間を使わずに、投資を始めるためにバイトでお金を稼ぐことに時間を使うのは選択肢を狭めているように思えます。

 これだけ、投資をしたがる人が日本に多いわけですから、昔に比べると投資される側にまわることが圧倒的に有利になっているはずです。やりたいことのある若い人は、金融商品を買ってお金を増やすなんてまどろっこしいことをしないで、投資してもらうことも考えた方がいいと思います。それが、本来の金融の目的ですから。

「お金」はあくまで手段であり、金融という仕組みを使えば人生の選択肢を増やすことができます。「金融商品教育」ではなく、そのことを理解してもらえる教育こそ重要だと思います。

田内 学(たうち・まなぶ)作家・社会的金融教育家
1978年生まれ。2003年、東京大学大学院情報工学系研究科修士課程修了後、ゴールドマン・サックス証券に入社。16年間、日本国債や円金利デリバティブ、為替などの業務に携わり、2019年に退職。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)、『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)がある。

デイリー新潮編集部

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