フランスに飛んだ「平賀源内」がケロッと江戸に!? 無茶な設定もサラリとこなす「山口崇」の魅力

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兵庫生まれなのに江戸言葉

 私が個人的に山口の当たり役だと思っているのは、もうひとつの同心役、「御宿かわせみ」(NHK)の畝源三郎だ。原作は平岩弓枝の小説で、1980年に第1シリーズ、82年に第2シリーズが放送された。

 主人公は大川端の小さな旅籠「かわせみ」の女主人・庄司るい(真野響子)。彼女と町奉行所の与力の弟・神林東吾(小野寺昭)の身分違いの恋模様と、江戸で起きる事件の謎解きが描かれる。第1話「水郷から来た女」は、9人もの人が惨殺されるというハードな事件。その裏に猫を抱いた女による子どもの誘拐事件があると睨んだ東吾と親友の源三郎は、恐ろしい相手に立ち向かうことになる。

 堅物の源三郎は色恋がらみの事件には弱いが、凶賊相手には強い。頼りになる男だ。演じるにあたっては、特に江戸の言葉に注意をしたという。

「向島に『小梅』という地名があって、僕が普通に『こうめ』と言ったら、脚本の大西信行先生から『こうめじゃない、こんめだ!』と後で叱られました。共演の江戸家猫八っつぁんは江戸っ子中の江戸っ子だし、花沢徳衛さん(宿の番頭)も江戸の言葉がすごく達者な方。ところが、僕は兵庫の出身で、岡っ引き役の大村崑さんは関西弁、小野寺さんは北海道、東吾の兄役の田村高廣さんは京都出身。そういう人たちが江戸前の言葉を話していたのは、今考えると面白いですよね」

平賀源内を再演

 俳優業のかたわら1978年から「クイズタイムショック」(テレビ朝日)の司会を86年の最終回まで続け、長唄三味線の名取となり、三谷幸喜が脚本の「古畑任三郎」(フジテレビ)や映画「記憶にございません!」に出演するなど、時代劇だけでなく幅広い仕事を楽しんで続けてきたように見える。

 早坂暁は1990年に「天下御免」の後日談ともいえるドラマ「びいどろで候~長崎屋夢日記」(NHK)を書いた。長崎・出島から将軍謁見のために江戸を訪れるオランダ人の常宿・長崎屋を舞台に、女将かおる(八千草薫)と娘お蘭(原田知世)らが、遠山の金さんやナポレオンらとともに騒動を繰り広げる。長崎屋の屋根裏には30年前に獄死したはずの平賀源内(山口)が!

「あれは早坂暁先生が『お前じゃなきゃダメだ』って、たぶんリップサービスでおっしゃったので、どうやろうかと先生に相談すると、『とにかく老けりゃいい』。ならば『どうせ実際に老けたから、そのままでいきます』って言ったら、結局、メーキャップなしで出ることになったんですよ(笑)」

「天下御免」の最終回で源内は、気球に乗ってでフランスへと旅立っていったはず。それがケロッと江戸に戻っていたなんて。こんな設定をサラリとできるのが、俳優・山口崇の一番の魅力だったと改めて思う。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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